未来の君に贈る言葉｜リアクション

未来の君に贈る言葉

◆出会いと別れの季節にて

「ん、皆揃ったね！」

　校庭に元気よく響く久保田美和の声に、次々と返事が上がる。
　各々表情や態度に差はあれど、皆、片手にスコップを持ってやる気満々と言った様子か。そんな面々にやや気押されつつ、件の男性が「よろしくお願いします」と頭を下げた。黒い詰襟の学生服、人ならざる男性——彼は、その名を春義(はるよし)と名乗った。よろしくと誰かが言う。久保田の目の前にいるのは、綾辻綾花と早川珪、稲積柚春、仙藤紫に花咲夢乃。そこに、桜の花に誘われ、花咲に声を掛けられたシオ・レイゼルオークと、若く青い春の気配に興味を引かれた三毛谷道哉が加わった。
　曰く「学校の中のお花も見れて役得～なんて」と。曰く「こんな日があってもいいじゃないか。気が向いたんだよ」と。

　早速と言わんばかりに稲積が口を開く。

「春義さん、タイムカプセルを埋めたのは何年ぐらい前？」
「60年くらい前、でしょうか」
「60年……んー、一般的な桜の木の寿命を考えるとぎりぎりかも」
「ぎりぎり？ああ、植え替えられてるかもしれないって事かしら」

　仙藤が冷静に口を開けば、稲積がこくりと頷く。
　学校に植えられている桜の木は、全てソメイヨシノという品種である。個体差はあるがその寿命は約60～80年と言われているらしい。

「うーん、だとしたら探すの結構難しそうですね」

　シオは言う。唯でさえタイムカプセルは、その場所が分からなくなったり掘り出せなくなっていたりと暗い話題に上がりがちだ。埋めた場所の資料等は学校に残って無いのかと続けて問えば、春義は申し訳なさそうに首を振った。

「僕のはその、学校の記念とかじゃなくて、個人的に埋めたもので」
「あーそうなんですか。うーん、じゃあ、何か覚えてないですか？」
「何か、とは？」
「えっと、確認みたいな感じで、その頃と比べて変わった場所、校舎の配置とか、逆に見覚えのある樹の位置とか風景とか～……」
「うーん、そう、ですねぇ……」

　答えは、わからない。何も変わっていないようで何もかもが変わっているようで。時間と共に徐々に変化する間違い探しのような、気付くか気付かないかも微妙な違和感しか抱けないのだと彼は言う。「すみません」と項垂れる春義に、シオもその他の面々も気にするなと苦笑を浮かべる他ない。兎にも角にも行動あるのみ、か。先の見えない不安を払うように、一同は動き出す。

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