未来の君に贈る言葉｜リアクション

未来の君に贈る言葉

◆悪戯な花衣

　春義のヒントの元、久保田、綾辻、早川、仙藤、花咲、シオ、三毛谷の7人は、手始めに音楽室付近の桜の木を調べ始めた。合唱の聞こえる場所という部分から、まず可能性が高いのがこの近辺だからだ。誰が呼んだか、どこからともなく現れた野良猫達も文字通り猫の手を貸して手伝ってくれてはいるものの、思うようにはいかないらしい。

「うーむ、やはりそう簡単には見付かってくれないか」
「そうね、でも救いがあるとすればここは森や林ではなく敷地内であるという事。桜の木の数は限られているから、虱潰しに探せばいずれは件の木にたどり着く……はず」
「そうですわね。仙藤さんの仰る通りですわ、頑張りましょう」

　その一方で、稲積は英語科教員室への扉を潜っていた。
　その先にいたのは——ウォルター・B。いつもの笑顔を浮かべる彼に不覚にもほっと胸があたたまる。いけないいけない。今はそんな場合ではない。軽く首を振って事情を話せば、彼はふむ、と、ひとつ頷いた。

「そうだな……確か音楽室近くの桜の木は、ここ最近植えられたものだよ。その前に木は無かったと思う」

　ここ最近と言っても30年以上前ではあるのだが。ウォルターの言葉という名の資料をなぞる。補修点検工事の記録はあるものの、大規模な校舎の移動や改築記録は、ない。とすると、

「もっと別の場所にある……？」
「そうだね、……ああ、なるほど」
「？なにかわかったの？」

　ふふっと、ウォルターが口の端を歪める。
　彼のどこか意地の悪い顔に稲積が眉を寄せれば、ウォルターは肩を揺らしながらこう告げる。

「桜の季節に聞こえる代表的な歌声、特に学校で聞こえるものといえば？」
「え？」
「それが答えになるかもよ」

　それは一体なんだろうか？ますますもって眉が寄る。
　様々な歌声はあれど、代表的なもの、特に、この季節、学校で聞こえるもの。
　刹那、ぴんと光が差した。

「卒業式の合唱曲……！」

　ああそうだ。今の時期、音楽室以外でも合唱が行われる場所が、その歌声を力一杯響かせている場所があるじゃないか。体育館だ。窓の外を見た。体育館と校舎の間、渡り廊下を見下ろすようにして一等大きな桜の木がある。「あっ」大慌てで携帯を操作する稲積を見、ウォルターは微笑む。

「探し物、見つかると良いね」

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