さようなら前髪｜リアクション

さようなら前髪

●前向きな気持ち

「彩葉、やっぱり私たち、小学生の時みたいな友達には戻れないよね……」
　その言葉に彩葉は戸惑ったが、心のどこかでわかっていた。小学6年生のあの日から。
「うん……もう、昔みたいにはなれない……」
　そうだよね……と言いたげに俯く柚希の顔に手を添え、そんな顔しないでと安心させてからこう言う。
「それでも、私はゆずちゃんには幸せになってほしいって思ってるよ」
　それを聞いた柚希は驚いたように目を丸くしつつ、彩葉の顔をまっすぐ見つめた後に頷いた。
　幸せになってほしい。
　心が少しでも軽くなり、友達だった頃みたいに明るく強気、自信があるように振る舞ってほしい。
　話を聞いたことで本当の柚希は内心では繊細で、自分に自信を持てない二面性を持っていることを知ったので余計にそう思う。
「私も、彩葉が幸せになることを願ってる」
　そう言った後、また「あの時は本当にごめん……」と謝った。

　辺りが薄暗くなってきたので、そろそろ帰ろうかと二人は公園のベンチから立ち上がり並んで歩き出す。
　公園の出口で立ち止まり、お互いに最後の一言を交わす。
「ありがとう。そして、さようなら……」
「さようなら、彩葉。あなたと会えて、話ができてよかった……」
　言葉を交わした後、二人は振り向くことなく、背筋を伸ばしまっすぐ前を向いて歩き出した。

　後ろを振り返らずに歩き出した時、彩葉は前髪を触った。
　この前髪は、柚希が自殺未遂を起こした後から、柚希を追い詰めた自分の罪の証として伸ばし始めた。
　前髪を伸ばしたことに疑問を持ったクラスメートに、どうして伸ばしたのか尋ねられたことがあった。
「んーと、イメチェン……かな？　雰囲気変えてみたくなって」
　本当のことが言えない。理由が思いつかないのでそう答えた。
　前髪が長いと視界が狭い、前が見えないので長かった当初は良く誰かにぶつかったり、何かにつまづいたり。
　そのたび、ぶつかってしまった相手に謝ったり、痛い思いをした。
（こんなこと、柚希に比べたらどうってことないよ）
　そう思いつつ、長い前髪に慣れようと頑張った。
　慣れた頃には普通に歩けるようになり、誰かにぶつかることもつまづくこともなくなった。不便なことは無くなったが、罪の意識は消えなかった。
　ずっとこのままかと思ったが、柚希と再会し、思う存分話したことで少しだが気分が軽くなった気がした。
　それなら、もう切ってしまってもいいのではないだろうか。前髪を触りながら、そんなことを考える。
「うん、決めた。寝子島に戻ったら前髪を切ろう」
　前髪を切るということは過去との決別であり、新しい生活に向けての準備でもある。
「ゆずちゃんも変わろうと頑張っているんだから、私も頑張らないと」
　またどこかで会ったら、今度はどんなふうに話しかけてみようと思いつつ、彩葉は顔を上げて家路に向かう。

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あとがき

担当マスター：カターレ
ファンレターはマスターページから！

カターレです。このたびはプライベートシナリオのご依頼、ありがとうございました。

彩葉さんは明るく、元気なお嬢さんという印象ですが、プライベートシナリオでは陰りがあるといった印象が見受けられました。
仲が良かったお友達との出来事、お辛かったでしょう……。柚希さんも、相当辛い思いをされたことと思われます。
お二人の会話は、どのようにしようか悩みながら執筆しました。重くなり過ぎないよう、暗くなり過ぎないようにと。
わだかまりが解け、少しでも前向きになれたのであれば幸いです。

彩葉さんと柚希さん、お二人が幸せになれることを心からお祈りします。
重ね重ねになりますが、ありがとうございました。

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