さようなら前髪｜リアクション

さようなら前髪

●心からの謝罪

　涙声の柚希の言葉を聞いて、彩葉は心から謝っていることがわかった。
　謝っても許されることではないけれど、それでも直接会って謝りたかった。その思いが、柚希が小学校に行く原動力となったのだろうか。
　柚希の手をそっと握り、彩葉はゆっくりと口を開いた。
「ゆずちゃんに事情があったのは分かったよ。でも、一番の友達だと思ってたのに裏切られて悲しかったな」
「そう……だね……」
「けど、私も謝らなきゃいけない。あなたにいじめられたことを周りに話したのは、同じ目に遭ってほしいって思ったから」
　いじめに耐えかねたというのもあるが、自分と同じ目に遭ってほしいという気持ちもあった。
　柚希に、自分しでかしたことの重大さを思い知ってほしかったという思いもあった。
　暴露した日から柚希は孤立したので、仲間外れにされるといういじめに遭っていたも同然だった。
「あの時の私は、復讐のことしか考えてなかった……」
　暴露することで復讐した気になっていたことも、彩葉は柚希に伝える。そう思うほど、中学時代のいじめはひどいものだった。
　陰湿ないじめではあったが、暴力行為はなかった。柚希がそれをしなかったのは、彩葉に暴力を振るうと両親みたいに荒んだ人間になってしまうのではないかという恐れがあったからかもしれない。
「私……過去と向き合いながら、自分を変えようと努力しているの。少しでも前に進みたいから」
　自身のストレスや感情を他者にぶつけてしまうのは未熟だったから。
　いじめを行っていたのは悪意ではなく、心の負担をどう処理すべきかわからなかったから。
　過去の過ちを深く後悔し、過去と向き合いながら自分を変えようと努力する内省的な姿勢を持つ今なら冷静にそう判断できる。
　彩葉に一生許してもらえない。死ぬまで恨まれているかもしれない。
　そう思うたびに罪悪感で心が押し潰されそうになったが、柚希は負けない、と少しでも自分を変えようと努力している。
　押し潰されそうになるたび自殺未遂の日の辛く、苦しい思いがフラッシュバックする。
（彩葉もこんなふうに苦しかったのかな……？）
　この世からいなくなりたいけど、まだ生きていたい。どうしたらいいのかわからないまま、答えのない問答を何度も繰り返していた。

　あのことを心から謝らなかったら、苦しんでいること打ち明けなかったら彩葉は一生、許せなかっただろう。
　自らの過ちを悔い、未だ苦しんでいる柚希の本心を知った今は……少しだけでも許せるかもしれない。
　彩葉は立ち上がり、柚希の前で頭を下げた。
「あの時は本当にごめんなさいっ！！」
　柚希は首を振り、涙を拭いながら言った
「違うよ！　悪いのは私だから……！」
　理由はどうあれ酷いことをしてきたのだ。謝ったからといって許されるとは思っていない。
　お互いに何度も頭を下げて謝ったけれど、堂々巡りのようでなんだかおかしかった。
　泣き叫んだり、頭を下げたりしていた柚希が顔を上げてフッと笑ったので、彩葉もつられて笑った。

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