さようなら前髪｜リアクション

さようなら前髪

●複雑な心境

（私、なんで引き止めたんだろう……？）
　通っていた小学校の近くにある公園にいるベンチに腰掛け、自販機で買った温かい飲み物を少しずつ飲みつつ高梨彩葉は考える。
　そんな彼女の隣には、小学校時代の友達だった遠藤柚希が俯いて腰掛けている。
　友達だった、というのは、かつては仲が良い友達だったからだ。
　小学5年生の頃までは仲が良かったが、6年生のとある出来事がきっかけて仲が悪くなった。
　仲が悪くなるだけならともかく、いじめられるようにもなった。
　いじめは中学生になっても続いたが、柚希が転校していったことで終わった。

（いじめられたのは、私がやったことが原因でもあるんだけど……）
　小学6年生の時、彩葉は柚希が片思いをしていた相手を拒絶したことがあった。
　拒絶したのは相手が嫌いということではなく、柚希が片思いをしている相手ということを知っていたから。
　誰かから聞いたのか、偶然その場を見てしまったからなのか、柚希はそのことを知ってしまったようだ。
　何も知らない他人からすればそんなことでいじめていたのか、と思うだろうが、柚希にとっては許しがたい出来事であっただろう。
　実際には、いじめは柚希の両親不仲によるストレスを彩葉にぶつけていただけなのだが。
　柚希の両親が仲が悪いことは、何となくだが彩葉も知っていた。
　それによるストレスが解消されればいじめはなくなるかもと我慢していたが、中学生になっても続いたことにショックを受けた。
（あの日までいじめられてたっけ）
　彩葉が柚希にいじめられていたことを暴露したことを機に、いじめは無くなった。
　その日を境に柚希は避けられ、次第に孤立。両親が離婚し、自暴自棄になって自殺未遂を起こした後に父方の祖父母に引き取られることとなり転校していった。
　柚希がいなくなったことで、彩葉は落ち着いた中学生活を送ることができた。

　もう会うことはないかもだけど、どこかでばったり会うかもしれない。今と同じように、そんなことを考えたこともあった。
　中学時代に考えていたことが起きてしまったので、彩葉は戸惑いを隠せなかった。
　彩葉に気づいた柚希が校門の前から逃げ出してたので追いかけ、腕を掴んで引き止めた。今となっては、それが不思議でならない。
　逃げ出した理由を聞きたかったし、なにか後ろめたいことがあるのか知りたい。思うことはいろいろあるが、それには柚希と話し合わないと。
　話し合おうと決めて公園に誘い、ベンチに腰掛けたものの何を話せば良いのか。
　そんなことを考えているうち、柚希のほうから話し出した。
「私……あのこと、彩葉に謝りたいと思ってた……」
　そう言ってから柚希は俯き、黙り込んだ。このままでは時間が過ぎてしまうだけだと彩葉も話し出した。

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