「前髪を切ると、どんな感じになるのかなー?」
高梨 彩葉は鏡に向かい、前髪をかき上げて目元を出す。
いつもと違う自分を見て、前髪ひとつでこれだけ変わるものなのかと改めて思う。
この髪型にも慣れないと、と思うものの、どうも馴染めそうもない。
「だけど、あの日に決めたんだ。前髪を切るって」
トレードマークともいえる長い前髪を切ろうと決めたのは、ある冬の日の出来事がきっかけだった。
その日、地元の専門学校の受験を終えた彩葉は帰り道にふと自分が通っていた小学校に立ち寄った。
楽しいこともあったけど、辛いこともあった学び舎。
懐かしいな~、と小学校に入ってみようと思い立った時、校門の前に誰かが立っていることに気づいた。
「ゆ、柚希……!」
立っていた人物を見て、彩葉は驚きが隠せなかった。
小学校時代の友達、
遠藤 柚希。
5年生まで仲が良かったが、6年生の時に彩葉が自分の片思い相手を拒絶したことがきっかけとなり、彼女をいじめ始めた。
片思いの相手にしたことが許せないという思い。両親不仲によるストレス。
苛立ちを彩葉にぶつけ、いじめることでストレスを解消していた柚希は中学に進んでも小学校と同じ力関係を維持しようとしていた。
(あの時は、何度も絶望したっけ……。底まで沈んでしまえばいいのにと思うほどに)
絶望しかないと諦めかけていたが、耐えかねた彩葉がいじめられてたことを暴露したことで立場が逆転した。
その日を境にいじめの主犯だった柚希は避けられるようになり、次第に孤立。
さらに両親の離婚問題が重なったことで自暴自棄になった柚希は自殺未遂を起こす。
その後、父方の祖父母に引き取られることとなり転校していった。
離れていったけど、どこかで再会するかもしれない。そう思っていたが、それが今とは……。
罪悪感からか、柚希は彩葉を見るなり校門の前から逃げ出そうとした。
「ちょっと待って!」
逃げ出す柚希を追いかけ、追いついたところで腕を掴んで引き止める。
掴んだ腕を振りほどいて逃げるかと思ったが、抵抗する素振りはない。
逃げ出そうとした理由を訊ねるが柚希は俯き、黙り込んでしまった。
ここで立ち話も……ということで、場所を変えようと二人は小学校の近くの公園へ。
(私も逃げていちゃ駄目だ。向き合って、ちゃんと柚希と話をしよう)
公園前の自動販売機で温かい飲み物を買ってから、二人は公園のベンチに腰掛ける。
温かい飲み物を飲んで落ち着いたのか、柚希は小さい声で話し始めた。
「私……あのこと、彩葉に謝りたいと思ってた……」
仲良しだった頃の柚希は明るく強気で自信があるように振る舞っていた子だった。それが今では自信なさげ、繊細な雰囲気になっている。
転校することで新しい環境で穏やかな暮らしを取り戻した柚希は、過去の過ちを忘れないと決意。
地元に戻ってから、小学校の校門前に立っていればいつか再会できる。それだけが柚希の心の支えだった。
彩葉に直接謝ることを目標に今日まで頑張って来たが、いざその時になると怖くなったそうだ。
「そうだったんだ……。私も、柚希に謝らないとね。あの日のこと」
暴露したあの日から二人の立場だけでなく、関係も、環境も変わった。
向き合い、腹をくくって話せる今なら、立場も関係もまた変えられるのではないだろうか。
そんなことを思いつつ、彩葉は柚希の目を見て、ゆっくりと話し始めた。
お久しぶりです。カターレです。
高梨 彩葉さん、プライベートシナリオのご指名ありがとうございます。
・シナリオ概要
前髪を切るきっかけとなったある日の出来事の回想です。
通っていた小学校の校門前で出会ったかつての友達であり、いじめっ子であった遠藤柚希さん。
地元を離れ新しい環境で穏やかな暮らしを取り戻しましたが、彩葉さんへの後悔と謝罪したい気持ちは消えていませんでした。
あの日のことを謝罪したい気持ちはあれど、罪悪感で上手く話せないご様子。
彩葉さんはそんな彼女をどう思い、何を話すのでしょう?
遠藤 柚希
小学校時代の友達。
明るく強気で自信があるように振る舞う一方、内心では繊細で自分に自信を持てないという二面性を持つ。
両親が不仲という厳しい家庭環境。家族のバランサーを無意識に担うことでトレスを抱え続けていた。
それが原因でストレスや感情を他者にぶつけてしまう未熟さをもっていたが、悪意ではなく、心の負担をどう処理すればいいかわからなかったため。
現在は過去の過ちを深く後悔し、過去と向き合いながら自分を変えようと努力する内省的な姿勢を持っ。
展開は彩葉さんのアクション次第となります。どうなるか、楽しみにしております。