大雪が降った日｜リアクション

大雪が降った日

【大雪はお家デートの日】
　ねこぴょんの日から初めての冬のある日。
　綾辻綾花が朝起きて窓を開けると、外は一面の銀世界になっていた。
　休日の今日は、恋人の早川珪とデートの予定だった。だが、スマホで調べると電車もバスもこの大雪で止まっているらしい。
「遠くに行くのは無理ですね……」
　呟くと綾花は、珪に電話をかけた。
「珪さん、起きてますか？　すごい雪が積もってますよ。今日はお家デートにしませんか？」
　電話に出た珪に、彼女は言う。
　外に行きたいけれど、この状態では歩くのも大変そうだ。ならば、屋内でデートするのもありだろう。幸い、珪の住むアパートはここから近い。
　スーパーも雪で品物がないかもしれないと思いつつ、電話する前に冷蔵庫の中身を確認したところ、充分な買い置きがあった。彼を家に招いても、これで何か作れるだろう。
「わかった。じゃあ、昼前にはそっちへ行くから」
「はい。温かい料理を作って待ってます」
　珪の返事に、綾花はうなずいて電話を切った。

　約束どおり、昼前になって珪がやって来た。
　まだ雪は降り続いており、彼のコートは雪まみれだ。
　綾花は雪を払ってやってから、それを受け取り、コート掛けにかける。
「大丈夫ですか？」
「ああ。今はあんまり強く降ってない。それより、いい匂いだな」
　温かい室内にホッと吐息を漏らして答え、珪はあたりに満ちた匂いを嗅ぐ。
「ちょうど冷蔵庫に豚バラ肉と白菜とジャガイモがあったので、ポトフを作りました」
「いいな。美味しそうだ」
　嬉しそうに言う珪に、綾花も笑顔でうなずいた。
　さっそく二人はテーブルを囲んでポトフを食べ始める。温かく優しい味のそれは、珪の口にも合ったようだった。

　食事のあとは、リビングのテレビでネット配信のドラマを見ることにした。
　二人とも原作小説のファンで、ドラマ化されたと知った時から、見たいと思っていたものだ。１話45分で5話完結なので、夕方までには全部視聴できるだろう。
「キャスト、イメージどおりですね」
「ああ。ドラマになっても面白さは変わらない。いい作品だ」
　二人はそう言い合いながら、ドラマを見る。
　やがて全話見終わると、二人はどちらからともなく満足の溜息をついた。
「もっとこのシリーズ映像化してほしいですね」
　綾花の言葉に、珪もうなずく。
「そうだな。もちろん、スタッフもキャストも今のままで。……映画とかもいいかもしれない」
「素敵ですね。もし映画になったら、一緒に見に行きたいです」
「ああ」
　目を輝かせる綾花に、珪もうなずいた。

　綾花がお茶を入れる。
　ふと窓の外を見ると、少し前まで止んでいた雪が、また降り出していた。
「今日は泊まって行きませんか？　どんどん雪が積もっているみたいです」
　珪の隣に腰を下ろして、綾花は言った。
　すでに外は暗くなり始めており、近いとはいえ、常になく積もった雪の中を彼が帰るのかと思うと心配だった。それに。
「珪さんともっと一緒にいたいです」
　彼女は、珪をぎゅっと抱きしめる。
「だめですか？」
「それは……」
　じっと見つめて尋ねる彼女に、珪は言葉に詰まった。
　だが、窓の外の雪はさっきよりも強くなっている。実際、この状態で戸外に出るのは避けたいところだ。
　彼は低い吐息と共に、口元をほころばせた。
「わかった。泊まって行こう」
「うれしいです」
　その答えに、綾花はパッと笑顔になる。そして、抱きしめる腕に力を込めた。
　そんな彼女に、珪もそっとその背に腕を回す。
　雪は冷たく降りしきるが、そこには温かい空気が広がっていた。

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