にょろっと巳（み）ラクル！新春☆初夢フェア２０２５　茄子編｜リアクション

にょろっと巳（み）ラクル！新春☆初夢フェア２０２５　茄子編

　小春日和のわたしたち

　その場所は、一面の雪の照り返しを受けているかのように白く輝いていた。
　道は遠く先へと続き、どこが終いかわからない。
　朝鳥さゆると姫木じゅんは、何故かその道を並んで歩いていた。
　あたりがこんなに白いのだから、きっと冬に違いないのに、天からの日差しは暖かく穏やかだ。
　小春日和――そんな言葉が頭に浮かぶ。
（そう、きっと今日は小春日和なのね）
　淡い乳白色の空をみあげて、さゆるがそんな風に現状把握をしていると、じゅんが指を絡めてきた。

「さゆるの手、温かいわね」

「え？」
　特別なことを言われたわけじゃないのに、さゆるはなんだか驚いてしまった。
「私の手、温かいかしら」
　聞くまでもない。じゅんの手はひんやりしていて、さゆるの熱を奪ってゆく。自分の方が温かい証拠だ。
「ふふっ、さゆるったらおかしい。自分の手が温かいのが、そんなに驚くこと？」
　さらに深く指を絡めて、じゅんはころころと笑った。
「……以前は、自分の手が温かい、なんて感じたことがなかったから」
　ダウナーな美女、なんて呼ばれて明らかな低血圧キャラだった。血の通う温かさとは無縁で、常に緊張し、自分を殺して生きてきた。あのころ、自分の手はずっと氷のようだった。指先が痺れるような感覚でいることに慣れて、自分は冷たい海底で死んでいくんだと思っていた。
「こんな温かいところへ来れるなんて思わなかった」
　そう言ったのは、じゅんだった。
　視線を交わし合う。
　じゅんも仄暗い海底を知っているのだということを、さゆるは瞬時に理解する。
　自分たちは同じ暗がりの生き物だった。でも、お互いに出会って、変わった。
　じゅんは、自分より大人びて見える年下の恋人を、見上げた。
「……あたしの手、まだ冷たい？」
「手が冷たい人は心があったかいって聞くわ」
「迷信でしょ？」
「どうかしら。意外と科学的根拠があるのかもしれないわ」
「じゃああたしは心の温かい子ね。見えないところが温かいのはすてき。でも、物理的に温かい方がもっと好き。……ね、温めて、さゆる」
　さゆるの手に宿ったぬくもりを求めるように、絡められたじゅんの指に力が込められる。
　しっかりと、離れないように繋がれた手と手に、さゆるは珍しく年相応の表情をみせた。
「どうしてかしら。……急に、恥ずかしいわ」
「ふふ、かわいい。たまにはこんなさゆるもいいわね。ほら、おねーさんが隣を歩いてあげるから、おねーさんの冷たい手を温めてね」
　冗談みたいな口調で請われて、さゆるはもう片方の手もじゅんの手に添えた。
　じゅんが隣にいる。
　それだけで、かつては感じえなかった安堵感が、心の中を満たしてゆく。
「このままどこまでも歩いて行けたら……」
　さゆるは胸の中に浮かんだ願いを、そのまま口に出していた。じゅんはそれを受け止め微笑む。
「あなたの願いを、あたしも願うわ。それで……どこへ行く？」
　どこへ――さゆるは顔をあげ、視線を遠く前方へ向けた。
　この道はどこへ続いているのだろう。
　白くかすんだ道の先に、一体何が待ち受けているのか、今いるこの場所からは見通すことは出来ない。
　分かるのは、ここが、小春日和の世界であるということだけ。
「どこへ行くかは問題じゃないわ」
　さゆるはじゅんにそう告げた。
「じゅんが隣にいることのほうがずっと大切。こうして手をつないでいれば、どこにでも行ける」
「地獄でも？」
「地獄は、私たちの故郷でしょ」
「それもそうね。じゃあ、怖いものなんてないか！」
　じゅんは鈴みたいに笑って言った。
「小春日和のわたしたちは無敵だね」
　小春日和のわたしたち――そのフレーズを、さゆるは気に入った。
　ああそれは。
　きっと「幸せ」の別名だから。

このページにイラストを設定する