秋の味覚が大豊作☆｜リアクション

秋の味覚が大豊作☆

◆ライブ後に寄り道

　20歳になった楡宮遠海は横浜にある大学に通う一方、寝子島高校に在学中に結成したガールズバンド『衝動少女』のキーボーディストとして活躍中。元々いたキーボード担当が別のバンドに移ったことがきっかけで誘われた経緯が懐かしく思える。
　星野アカリ、綾瀬ルイ、その妹の綾瀬メイ。彼女たちに出会った時『このメンバーでやるバンドは楽しそう』と感じ取った。そしてそれは間違いではなかったと確信できる。今日もついさっきまで寝子島のライブハウス『Loosey』にいた。観客ではなく、ステージに立つ側として。ライブチケットはソールドアウト。約３時間、自分たちも客も大いに熱く燃え上がり、まさに完全燃焼した。

「ふぅ……」

　シャワーを浴びて汗を流しても、まだ身体の芯で熱いものが燻っている。それと同時に空腹に気づいた。近くにいたアカリに尋ねる。

「ねえ、お腹空いてない？」
「わかる。私も何か食べたい」

　ルイとメイも同様だった。ライブも無事に終わり、外に出た一行は休憩も兼ねて外食できるところを探す。

「どこで食べようかな？」

　ふと遠海の視線が『サイゼリニャ』に留まった。

「今日はサイゼにしない？」
「この前行ったじゃん？」

　アカリはそう反論するが、ルイやメイに押し切られて入店する。今はちょうど秋の特別メニューを展開しており、秋の味覚を活かしたラインナップが用意されている。もちろん常設メニューもあるなかで、各々どれにしようか迷っていた。
　一番判断が早かったのは遠海だった。そして他のメンバーも決まると店員を呼ぶ。

「この秋の特別メニューを全部と、通常メニューのこれとこれと、あとデザートも」

　店員は目を丸くしているが、バンドメンバーからすれば彼女の注文はいつも通りなので落ち着いている。遠海の注文が終わると、他のメンバーも続けて店員に伝える。そして全員分の注文を復唱して確認後、店の奥に戻っていった。
　もしかしたら厨房でも驚かれているかもしれない。料理が届くまで、ドリンクバーでひとまず乾杯する一同。疲れていても、ライブのことを語る時間は楽しい。

「お待たせしました」

　運ばれてきた料理がテーブルに所狭しと並べられていく。注文した数が数なので、順々に運ばれてくるらしい。それでも遠海の前には十分すぎる量の皿が置かれていた。

「いただきます」

　遠海は小さく手を合わせ、待ちきれないとばかりに食べ始める。お腹が空いているとはいえ汚らしくがっつくのではなく、上品においしそうに食べる。見た目は『鎌倉の名家のお嬢様』然とした清楚なスレンダー美人だが、彼女は規格外の食欲魔人だ。次々に運ばれる料理と優雅かつ大胆に平らげていく。

「ごちそうさまでした」

　全員が食べ終わったテーブルで、彼女のところだけ大量の皿が積まれていた。

このページにイラストを設定する