深夜、名前のない屋台にて｜リアクション

深夜、名前のない屋台にて

　斉田珠喪は先日までの激闘を思い返しながら、久々の寝子島を歩いていた。
（落ち着く空気じゃ）
　フランスでの格ゲーの世界大会で世界一になった後の寝子島への凱旋。世界に名前が刻まれたのだ、誇らしい気持ちだ。
　称賛され続けたが、今は一人の散歩。心が落ち着く。すると、
「ん？」
　細めの路地に屋台が出ていることに気づいた。
「うどん、か」
　のれんをめくると、狐らしき動物がエプロンをつけて湯切り用の網を持っていた。
「いらっしゃ〜い」
「む。うどんの屋台とは珍しいのう」
「うちはきつねうどん専門なんですよ。いかがです？」
「ふむ。せっかくだ、頼もう」
　椅子に座ると、ちりりんと風鈴が鳴った。
「中々洒落ておるのう」
「ふふ、ありがとうございます。お嬢さんは学生さん？」
「以前はな。今はプロゲーマーとして世界を回っておる」
「あら？　世界、ですか？」
　大規模な話だからか、驚いたように目を瞬かせる店主。
　そして、珠喪は静かに語り始めた。
「先の格ゲー世界大会の事じゃ。一人目、二人目を倒したわらわは大将戦へと入った」
「まぁ、大将ですか？　そのお相手に勝てば群れの一番になれるのですね？」
「そのとおりじゃ。しかし、簡単に倒せる相手ではなかった。その大将が中々の強者でな、中下の崩しも投げもしっかり対処できておる。あっという間に一本取られてしまった」
　店主はうどんを茹でつつ、こちらの話にも興味津津のよう。
「三本勝負なのですね。先に取られてしまうと、不利なような」
　珠喪はにやっと笑って人さし指を立てた。
「あとがないからのう、即座に一本取り返したぞ」
「私なら、プレッシャーでパニックになってしまいそうです」
　うどんが器に入り、汁が注がれていく。良い香りがする。
「で、最終戦じゃ。終盤、残り一ドットの体力。そして相手はほぼフル体力。誰もが相手の勝利を確信したであろうな。が、わらわの海外の異名を忘れたか？　見せつけてやったぞ」
「それはどういう」
「あれはガード7F有利であったな。そこから発生5Fから1ゲージ使った5割のコンボを叩き込む。後は賭けじゃよ。そしてわらわは勝った。無敵対空をパリィし残りゲージを使ったコンボでしっかりと仕留めたぞよ。会場からは「Crazy」、「Nightmare」、「Oni」コールの嵐だったわ。まぁ、わらわには称賛にしか聞こえなかったが」
　専門用語のオンパレードで店主は目を回していた。
「うう、つまり、お嬢さんが圧倒して勝ったのでしょうかね？」
「うむ。ゲームシステムなどを把握した上でプレイしておるからな」
　珠喪の前におあげの乗ったきつねうどんが置かれる。
「とても見えませんが、お嬢さんは世界と戦う人なのですね……！」
「まぁ、そうじゃな」
「そんな凄い人に私のうどんを食べてもらって良いのか迷うところですけども」
「長々と語ったな。どれ、頂くとしよう」
　汁を一口飲み、うどんをすする。つやつやの太麺とスープが絡み合って出汁の後味が最高に美味しかった。
「世界に通じる味やもしれんな」
　照れる店主と雑談をしつつ、少しの時を過ごした。

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