深夜、名前のない屋台にて｜リアクション

深夜、名前のない屋台にて

　潮田汐は部活からの帰り道、思いっきり伸びをした。
「ん〜！　はぁ、疲れたし、腹減ったわ〜」
　今日の練習は調子が良く、ノリに乗って遅い時間まで夢中になってしまった。これから寮に帰るだけだが、早く空腹を満たしてしまいたい。
「ん？　あれは」
　目に入ったのはラーメン屋台だった。
「おお、ええやん。こないな時はあれやな」
　お客は丁度途切れている様子。すぐに提供してもらえるかもしれない。しょうゆと鶏がらスープの匂いが非常に空腹にくる。
　汐はのれんをめくって、店主と目を合わせた。
「こんばんはー。まだやって……うおっ」
　白虎柄の猫が頭にハチマキを巻いて、エプロンをしながら、麺の湯切り網を持っていた。
（猫ちゃんやんけ！）
　屋台周りの不思議な雰囲気もあって、店主が猫であることはさほど驚かないが、単純ににゃんこは可愛い。
（なんやの、この癒し空間は）
「いらっしゃい！　そこどうぞー」
　威勢よく言ってくれたので、猫店主の前に座る。
「何にしましょ？」
「ここの店のいっちゃん美味いラーメン、一つ頼んますわ！」
　麺を茹でる仕草、丼ぶりにスープを注ぐ動作、トッピングを乗せていく仕草。その全てが、
（癒しやわ……）
　ついつい見惚れてしまう。
「へい、お待ち」
　出されたラーメンの美味しそうなこと。
「兄ちゃん、学校帰り？」
「んあ？　ああ、部活帰りなんやけど」
「は〜。学生は大変だねぇ」
　大変より、楽しさが勝っているのは良いことなのだろう。
「店主さんはいつもこの辺に店だしてるん？」
「今日だけ特別でね！」
「そうなんや。じゃ、いただきます」
　割り箸を割って、レンゲでスープを一口。
「んっ」
　じんわりと鶏がらスープのコクが染み込んできて、醤油の香ばしい香りと味が……その流れで麺をすすると、スープとの絡みが最高だった。
「うっま！　なんや、これ。最高」
　空腹も手伝って、手が止まらない。
「美味いかい？　学生さんは二杯目とか余裕で行くけど」
「替え玉一つ！」
「あいよ！」
　ペロリと平らげたので、すぐに替え玉を入れてもらった。
「はいよ、ナルト2枚オマケしちゃお」
「おお、ありっす。でも店主さん、こういうのって可愛い女の子にやるんやない？」
　からかうように言うと、
「なら、次回は可愛い子連れてきてもらおうか」
「真顔やん！？」
　そんなやり取りをしつつ、麺をすする。今日は少し冷えるが、体が温まった。

このページにイラストを設定する