ショートドラマは突然に｜リアクション

ショートドラマは突然に

◆スケッチとショートドラマ

　とある日曜日。
　朝永真深はシーサイドタウンへ買い物に出かけた。とりあえずの目的地はシーサイドアウトレット。道中で良さそうな店があれば立ち寄ろうと考えていた。

（何か良いものがあると嬉しいんだけど）

　そんなことを思いながら歩いていたら、突然声を掛けられた。

「そこの君！」
「私？」
「ちょっと動画撮らせてくれない？」
「……はい？」

　真深は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

「それってナンパ？」

　言外に『ナンパなら間に合っている』という意味も込めて返す。

「違う違う。俺はミューチューバーなんだ」

　ここで初めて彼は笹川帆太と名乗った。今ショートドラマが流行しているから、それに便乗したくて撮影している旨を真深に伝える。

（ショートドラマ？）

　帆太はすぐにこれまで撮ったショートドラマを真深に見せる。特別凝ったものでもなく、スマホで撮影された映像にエフェクトやＢＧＭが一応付け足されているという印象を受けた。

（こんな感じなんだ……危険な様子もないし１回だけならいいかな）

　真深は１回だけという条件をきちんと示し、帆太も了承した。帆太はいくつか案をぼんやりと描いており、真深と話しながら合いそうなものを考え始めた。ふと、彼は閃いた。

「そうだ！」

　取り出したのは色鉛筆とスケッチブックだった。特技の話を聞いた時に似合うと思ったらしい。
　内容はベンチに腰掛けて、目の前の様子を描くだけ。その過程を丸ごとショートドラマの題材にしようという作戦。しかしイラストを１分ほどで仕上げるのは現実的ではない。そこで帆太が先に下書きを描き、それをなぞる形で映像にする。

「あくまで参考って感じだから、自由に描き足してもOK！」

　帆太がぱぱっと下書きをする。それを受け取った真深が確認すると、物の位置や人がいるか分かる程度の書き込みだった。

（いろいろ描き足してもいいって言ってるし……）

　撮影が始まると真深は鉛筆を走らせる。人の動きを分かりやすくし、服や帽子を丁寧に追加する。背景も色を入れて、もの同士の立体感や距離感を演出する。

（美術の授業みたい）

　そんなことを思っているうちに出来上がった。流石に１分で収まるはずもなく、撮った映像は早送りしたり部分的にカットする。帆太が試作で簡単な編集を施して、真深に確認をとる。できあがった映像に彼女は満足そうだ。後日きちんとした編集を加えて投稿されるんだろう。
　帆太は協力した真深に感謝を告げると、次の撮影を目指して去っていった。

「……予想外の寄り道になったけど、悪くなかったかも」

　真深は軽やかな足取りでアウトレットへ向かった。

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