ショートドラマは突然に｜リアクション

ショートドラマは突然に

◆夢に向けて

　とある休日。落合まゆらは引っ越し準備に追われていた。
　彼女は寝子島アニメーション学院声優科を卒業し、準大手の声優事務所『キャットボックス』に所属することが決まった。とはいえ、所属事務所が決まったからといってすぐに仕事がバンバン来るわけではない。基本的にオーディションを受けて仕事をつかみ取る必要がある。実際、今年の秋アニメのオーディションをいくつか受けることが決まっている。

「あ、ガムテープ無くなった」

　荷造りの途中でふと気が付いた。折角だし買い物ついでに散歩をしようと外に出た。他にも必要なものがないか考えながら歩いていると笹川帆太とばったり出会った。過去に参加した『寝子島辛いもんデスロード』の撮影以来だ。

（あのときの撮影は、色々あったわね……）

　美味しかったが、辛さのオンパレードだった一日が蘇る。帆太がスマホを構えているのを見て、今回も何か撮影しているんだろうと察した。そして、そこまで予想できていると出演依頼されるのも分かっていた。

「この前みたいなのは、流石に嫌なんだけど」
「大丈夫！　今回はショートドラマだから！」

　帆太は快活な声とともに台本を渡してきた。また突拍子もないものだったらどうしようと内心焦りと不安を抱えつつ受け取る。しかし内容は意外にもしっかりしており『これならできそう』と判断し了承した。
　帆太が撮影の準備をしている間に、あらためて台本に目を通す。
　物語は立ち止まる少女が夢を語るところから始まる。一歩ずつ歩き出し、少女の語りも加速する。不安や焦りも口にしつつ、それでも歩みを止めない。そして最後に今まで歩いた道を振り返り、ここでカメラが止まる。　

（シンプルだけど、なかなかいいわね）

　台詞を読み込み、どういう感情で言葉にするべきか考える。やりたいことをやるためには、様々な形で壁が立ちはだかる。それは彼女自身がよく分かっていた。だからこそ、表現することを妥協したくなかった。

「準備できたよ！」
「あたしも大丈夫」

　帆太が三脚にスマホを構え、撮影ボタンを押す。そして長いような、短いような、１分ほどの動画が生まれた。撮影された映像を見て、まゆらは我ながら悪くないかもと思った。

「撮影に協力してくれてありがとう！」

　帆太はそう言い残して去っていった。
　後日投稿された動画はBGMなどの演出が加えられ、それなりの評価を得た。再生数でいえばそこそこだが、声や演技について好意的なコメントが寄せられたことが彼女は嬉しかった。

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