ショートドラマは突然に｜リアクション

ショートドラマは突然に

◆経験を活かして

　稲積柚春とウォルター・Bは休日に２人で出かけていた。いい天気だし、これからどこへ向かおうかと話していたら笹川帆太に声を掛けられた。聞けば彼はミューチューバーで、ショートドラマの撮影がしたいらしい。

「ドラマといえば、前にも２人で出たことがあったね」
「あったねえ」
「あのときはドキドキしっぱなしだったけど、配役次第では頑張れるかも！」

　帆太の提案を２人は快く承諾した。
　しかし今回の尺は１分ほど。あのときと比べるとだいぶ短く感じられた。それにすぐに面白そうな設定も思いつかないし、台詞も長くは喋れない。

（短時間でどうにかできそうな……）

　思案する柚春はふと閃いた。

「そうだ！　現代版人魚姫はどう？」

　大抵の人は知っている物語のうえ、諸々の懸念をすべて解決できる。帆太もそのアイディアに賛成し、撮影を開始する。
　人魚にあたる役を柚春が、その対話相手をウォルターが務める。おおまかなストーリーはボディランゲージやアイコンタクトで好きを伝える柚春と、多国語を喋れるウォルターが架空の言語を話して気持ちを通じ合わせるというもの。
　聞いたことのない言葉に動揺するも、めげずにアプローチする柚春と、文化の違いでボディランゲージが上手く伝わっていない様子のウォルター。その状況では２人の意思疎通は絶望的に思われた。しかし柚春は諦めない。手を握り、抱きしめ、繰り返し声なき声で『すき』と囁き続け、興味を持ってもらえるように奮闘する。それを撮影する帆太も真剣になるほどの熱演だった。
　ふと柚春の心に、片思いの頃に戻ったような切なさがこみ上げる。
　彼女は思わず『ワット』と声を出さずに呼んでしまう。ウォルターはそれに気づくと、架空の言語に優しい声色を乗せてそっと柚春を抱きしめた。ここで撮影が終わり、帆太が駆け寄ってくる。

「すごいのが撮れました！　協力感謝です！」

　２人とも撮影した動画を確認すると、なかなかいい雰囲気にまとまっていると感じた。ここに編集を多少加えたものが投稿されるのだろう。帆太が去った後、２人で先ほどの撮影を思い出しながら話に花を咲かせた。

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