葬儀屋はいつだって迷子｜リアクション

葬儀屋はいつだって迷子

★どんな人だったのかな？
「ミタマおばあちゃんって、有名人だったの？」
「あやかし達の筋ではそれなりに有名だったっぽいですねぇ。流石に霊界全土に名を轟かす……というほどではないですけれども」
　現世にて、月原想花の疑問に対して、葬儀屋・ニノマエは手にしているメモを見ながら答える。
「やみくもに霊界を探していても時間はかかるし、埒が明かないな……」
　――どんな人だったのかな、こんな風に話題に出るのならば、興味が皆無というわけでも、ない。
「生前に居た駄菓子屋はどうだろう、現世でどんな人だったのか分かれば、ヒントになるかも……」
「そうですね、行くだけ行ってみましょうか」
　と、二人が歩を進めると、駄菓子屋には一人青年が居座っていた。
「いらっしゃーい……って、余所から来た人かね」
「……貴方は？」
「ん、ここの跡継ぎってヤツだね。まぁ、突然任されて何が何やら、って感じではあるけども」
　あっけらかんとして答える青年、早速ヒントは見つかったようなものだ。
「あの、ここで以前切り盛りしてたミタマおばあちゃんについて知りたくて……」
「ミタマおばあちゃん？　ああ、ホントに気の良い人だったよ、まぁちょっと口煩いところはあったかな。店のことが大好きで、俺がガキの頃から面倒見てくれていたんだ。実の息子さんが都会で忙しいってんで、店を守ってほしいって俺が託された次第さ」
　聞けば、駄菓子はいつもオマケをしてくれるし、やんちゃな子供がいれば叱りを飛ばすような、元気なおばあちゃんだったらしい。死因は老衰で大往生だったようだ。
「つかぬことを聞くけど……ミタマおばあちゃんは、どういう場所が好きだった？」
「そりゃ、人が賑わうところだね！　駄菓子屋で子供が集まるとそりゃもうニコニコしていたってもんよ。……何か事情があるのかい？」
　問われて、素直に状況を説明する。霊界と言うと少し相手は面食らったが、らしい話だな、とすぐに受け入れてもらえた。
「墓かぁ……あのひと、悲しまれるのはすごく苦手だろうからな。目立たたない場所にあるか、さりげない場所にあるんじゃないかな？」
「なるほど……」
　目立たない場所、もしくはさりげない場所。しかし、『皆と過ごした場所に墓を残して欲しい』とのことだ。
「……もしかしたら……」
　ひとつの可能性を、想花は思いついていた。

★猫とおばあちゃん
「葬儀屋さん！　ミタマおばあちゃんの写真ちょうだい！」
　響タルトからの要請に、はいはい～、と葬儀屋はにゃいんのダイレクトメールで写真を送付した。
　ゆるくメモ帳に手描きされている犬のアイコンが表示される。
　葬儀屋さんのニャインアイコンってこういうのなんだ♪　……というのはさておき。
　写真の時点で年齢はかなりいっているだろうに、しゃんと伸びた背が印象的な人物であった。
「ふむふむ、これがミタマおばあちゃん……」
　じい、と食い入るように見るる写真の中で元気いっぱいの様子のミタマおばあちゃんを見る。
　……お墓参り、確かに、行きたいのならわかる気がするかも。だって、写真から良いひとそうな感じがするんだもの！
「おばあちゃんの本名は、何て言うの？」
「荒牧ミタマさんと言います。……この様子ですと、生前、とても人気だったようですねぇ」
　駄菓子屋で子供達に囲まれてニカッと笑うミタマおばあちゃんの姿。慕われていたのだろう。
「ふんふん……駄菓子屋さんには行ったんだよね？」
「ええ。今は跡継ぎの方がいらっしゃりました。月原さんは何かお心あたりがあるようでしたので、先んじて霊界の方に向かっていただいております」
「ふむふむ……ミタマおばちゃんの跡を辿って、霊界を巡れば、自然と見つかりそうではあるね」
　一直線よりも、そっちの方が楽しいかもね――あと、ミタマおばあちゃん、そういうの喜びそうかも！
　タルトはそう言って、葬儀屋と連れ立ち、二人もまた、霊界へと向かった。
　――ミタマおばあちゃんの情報をたどれば、あやかしがあれやこれやと話しかけてくる。
「ミタマおばちゃん？　ああ、あの元気なおばあさん幽霊ね！　もう天国にいっちまったんじゃないかな？」
「その様子だと、さすがにもう会えない感じ？」
「応とも、善い人だったよ。そうそう、麩菓子が好きな人だったナ。墓前に添えるのはもちろん、お前らが食うのも喜ぶだろうから、ホラ」
　生前と違わぬ評価に、タルトと葬儀屋の二人は麩菓子をいただきながら、なんとなく笑顔になって。
「それじゃー……行きますか～！」
　もぐもぐ、さくさくとした甘く軽い食感を味わいつつ、少しだけ寄り道をしていく。
　勿論、協力してくれる皆の分のお菓子も手に持って、だ。

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