唸るグレートソード。
「あはははは！　ほらほら、どんどんいくわよ！」
　行く手を阻む全てのビキニアーマーを斬り払ってゆく落合 まゆらは、中学生の時分は非常に内向的な性格であったという。人に歴史ありといったところか。ビキニとなり嬉々として敵を剥いてゆく様からはいまひとつ想像できない。
「うわあああ、来るな！　来るなー！　もう脱がさないで……！」
「悪いわね。これで終わりよ！」
「ぎゃああああ……」
　このように明るく快活なまゆらとなったことには、高校進学にあたって驚嘆あふれる寝子島へ移住したこと、そこで多々奇妙な体験を重ねたこと。一念発起し声優への道を志し夢の第一歩を踏み出したこと、そして何よりビキニアーマーの力であったことは想像に難くない。
「ふふっ、たまにはこういうおバカなことを全力でやるのもいいわよね。さっ、次の相手は……っと！？」
　間一髪だった。腋を抜けていった一陣の風は銃弾だろう。狙撃されている。
「どこから撃ってきたの！？　って、わあっ！」
「外れた！？　あたしと紗月のコンビネーションを避けるなんて！」
　踊りかかったのは初瀬川 理緒。向こうの遮蔽物には佐和崎 紗月が潜んでおり、役割分担で敵を追い詰めるのが二人の黄金パターンとなっていた。
　まゆらは口角を上げる。
「ふ……いいわよ。ちょっと手応えがなさすぎると思ってたところだわ」
「あたしも。何ていうか、身体が熱くなってきちゃうのよね」
「うん。思いっきり、やりあいましょ？」
　横薙ぎに振るう理緒の斧を弾き、まゆらはグレートソードを振り下ろす。バックステップで間合いを話す理緒へまゆらは追いすがるも、そこへ紗月の狙撃銃が牙を剥く。
「くうっ……あ、危ない！　狙いは正確ね」
　どうにか刀身で銃弾を受けてしのぐが、しかしスコープを覗き込む紗月もまた驚嘆に震えていた。
「理緒ちゃんの斧をさばきながら、私の狙撃を外すなんて」
　理緒も紗月も今やいっぱしの闘技者、いやビキニアーマー戦士らしい思考をするようになった。奥手で控えめな紗月はなりを潜め、いかにビキニを撃ち抜くかへ思考を深めてゆく。理緒もまた眼前のビキニを斬り捨てることにのみ没頭する。それこそがインビテーション・アリーナ、人々の意識を新たな次元へと招くのだ。そう、ビキニアーマーの真髄へと。
　グレートソードの巻き起こす旋風が理緒を追い詰める。
「たああああっ！」
「まだ……まだだよ。まだ……ここ！　紗月！」
「射線が通った、いけるわ！」
　研ぎ澄まされた一発が刹那、音を置き去りにした。
「し……しまった！？」
　紗月が撃ち抜いたのはビキニアーマーを構成する重要な一部分、まゆらのパンツの紐だった。落ちるアーマーを思わず抑え乙女をかばったことがまゆらの致命的な隙となった。
「たああああー！！」
　理緒の斧が閃く。
「……お見事。素敵なコンビネーションだったわ」
「あなたも、なかなか強かったよ」
　はらり、儚き散り様もまたビキニ。大剣は地に転がり、己が両手のみで肢体を覆いながらまゆらはビキニッチョたちに抱えられ退場していった。
「……理緒ちゃん！」
「紗月！　無事だった？」
「ええ……」
　戦いは熱を生む。内から滾る衝動が生存本能と絡み合い、アリーナにて昇華するのだ。無数のビキニアーマーを剥ぎ取ってきたこれまで無敗のコンビもまた例外ではなかった。
「……理緒ちゃん。私、理緒ちゃんが誰かに脱がされるくらいなら……いっそ」
「うん。同じこと考えてたところよ。紗月」
　恋人たちは互いの武器を突きつけ合い、耽美に揺れる瞳で見つめ合った。他者へ思い切りぶつけてきたこの衝動を他でもない彼女へ叩きつけたなら、どれほどのカタルシスだろうか？　どれほどの背徳だろうか。
「いくよ、理緒ちゃん……！」
「おいで、紗月。あたしが脱がしてあげる……激しくね！」
　愛し合う二人さえもインビなバトルへ導く、かくも罪深く、だからこそ美しい。嗚呼、ビキニアーマー。

　バトルロイヤルである。共闘状態も一時のもの、最終段階においてはただ一人となるまで戦い抜き、最後の勝者を定めねばならないのだ。無情なことだがそれが覆らぬ絶対のルールというものなのだ。
　紗月と理緒が満ち足りて互いのビキニを散らした頃、戦場に未だ立っているのはもはや二人だけとなっていた。
「いよいよ決着ってところかしら」
「うむ！　我らにふさわしき、華々しいフィナーレを決めようぞ！」
　真境名 アリサとルーシー・R・マクミラン。ビキニアーマー戦士の頂へ上り詰めるのは、美しき散り様を披露するのはどちらだろうか。
「もはや語るまい！　我が美の真髄、とくと見よ！」
　ルーシーは再びビキニの上を取り去った。事ここに至ってはアリサも何も言わぬまま身構えた。それが彼女のスタイルであるなら許容し、そして打ち倒すのみ。それにしてもこの砂混じりの無粋な風は何だ、肝心なところがまるで見えないではないか。憤慨するギャラリーの怒声も置き去りに二人は対峙する。
「てえええいっ！」
　アリサの繰り出す二刀流とルーシーの蒼きタルワールが真っ向ぶつかり合い、もたらす衝撃は空を揺らし地を揺らし乳を揺らす。尻を震わせながらの剣戟は目にも留まらぬスピードで、息もつかせぬ攻防に聴衆も釘付けだ。
「ああ……熱くなってきた！」
「うむ、我もだ！　存分に舞おうではないか、はっはっは！」
「ええ、思いっきりね！」
　武闘は舞踏、見る者を魅了し虜にするという意味において両者は根本的に同じものなのだ。異論もあろうが実際そうなのだから仕方がない。見よ聴衆の血走った目を、観覧するアミ・タイツ伯爵のうおおおおっと叫ぶガッツポーズを。アリサとルーシーの立ち回る様ときたら踊りと闘技の違いも分からぬ程に洗練され研ぎ澄まされていたから、彼らの興奮たるや尋常ではなかった。
「そこだ！」
「くっ、あたしのパンツをよくも！　さすがにやるわね……！　それに美しい技だわ」
「そなたもな！　世界で二番目の舞手であろう。無論、少しばかり我には届かぬがな！」
「言ってくれるわね……！」
　止めどなく盛り上がりを見せる両者のぶつかり合いであったが、何事にも終わりは訪れる。この場にあって引き際の妙、散り行く華の儚き美を真に理解するのはやはり、ルーシーであったようだ。
「さて、ここまでだな。この絢爛舞踏、我が美の真髄でもって締めくくろうぞ……今が煌めき、輝く時！」
　叫び、高々と掲げた人さし指へ衆目の全てが集う瞬間こそが、その集大成であった。ルーシーの曲刀は宙を走り、ビキニアーマーを繋ぎ留める革紐を己が刃で切り裂いたのだった。
　アリサは訝しげな表情を浮かべてみせたが、半ばルーシーを理解してもいたことだろう。
「そう。この世には勝利に勝る美しさが存在するというわけね。見事だわ」
「元より闘技の顛末に興味は無いのでな。見よ、観衆の輝く瞳を！　我が完璧なる肢体に釘付けであろう、はっはっは！」

　全てをさらけ出したルーシーは自らの敗北を代償に、彼女の求む全てを手にしたのだ。どこからか舞い散った花弁によってルーシーの局部は鉄壁なまでに隠されたが、美に呑まれし聴衆がそれに異を唱えることはもはやなかった。ちっ。
「それじゃ……あたしの勝ちってことよね？」
　最後の闘技者、真のビキニアーマー戦士、アリサへも観客席からは称賛が寄せられた。投げキッスを返すともはや怒涛のごとき歓声となり、天へ地へと響き渡る。
　その時であった。
「！　アミ・タイツ伯爵……！」
　闘技場の貴賓席に座したかの伯爵が立ち上がり、いかめしい鉄仮面越しにアリサを見下ろしたのだ。
「美しき闘技、このインビテーション・アリーナの覇者は、眞境名嬢である！　皆、盛大な拍手で勝者を称えるがよい」
　雷鳴轟くがごとき拍手を浴びながら、アリサは不遜な笑みを浮かべビキニマッチョ伯爵を見据える。
「あたしが優勝ってわけね。で、賞金でももらえるのかしら？」
「ふ。そのようにつまらぬものを私がくれてやるとでも思うのかね？　さあ、こちらへ。最上の栄誉を授けよう」
　闘技の昂揚冷めやらぬまま、アリサは壇上の伯爵のもとへと歩を進める。