ふくびきやの憂うつ｜リアクション

ふくびきやの憂うつ

　真境名アリサはとある美術館の物置に、天窓から侵入し、辺りを見回した。
「さすがに警備は回ってないみたいね」
　物置を出て従業員通路を走り抜け、吹き抜けの大きな部屋の二階へ入った。
「やっぱり」
　吹き抜けの一階フロアにはガラスケースに入ったグリーンの宝石が複数の警備員に守られていた。
「おい、いたぞ！　怪盗だ！」
一階から上がってきた警備員に見つかってしまったようだ。
アリサはふっと笑い、スマホをタップした。美術館内の照明が消える。それから手すりを飛び越え、一階のガラスケース上に着地。
「もらって行くわ」
　ガラスケースを布で押さえて、叩き割る。
　サイレンが鳴り響き、美術館自体が臨戦態勢だ。
　アリサは宝石を取り、警備員たちの間を抜け、出口を目指す。
「え？」
　視界に影が横切った。
　その瞬間、電気がつき、警備員達の首が飛んだ。鮮血が舞う。
「は！？」
　目を疑うような光景。美術館内が赤色にチカチカと瞬く。
　悪夢のような光景である。
　アリサは顔を引きつらせるしかない。
「やあ、怪盗のお嬢さん。チャッキー・マウスだよ～。恐怖と悪夢の世界へようこそ」
「なっ、ちょっと、ホラーなんて望んでな」
　殺人人形と呼ばれるチャッキー・マウスがぱちんと指を鳴らすと、アリサの回りの床に鉄の棒が何本も突き刺さり、檻のように動きを制限してきた。
「さあさあ、首を離してあげよう。でも大丈夫、首が飛んでも生きてられるからねえ。死んだまま生きれるんだ」
　片手で鉄の棒をどうにかすることは出来ない。泣く泣くアリサは宝石を床に転がし、両手で鉄の棒を曲げて脱出。
　首がないのに追いかけてくる警備員達から追われる羽目に。
「くうっ」
　お宝を逃した上に捕まったらシャレにならない。
「きゃはははっは。怪盗さん、めっちゃ逃げるねぇ」
　常に耳元で煽られ、アリサの中で何かのスイッチが入った。
（待って待って、逃げて回ってばかりじゃ全然カッコよくないし、それに三流ホラー映画のキーキー泣き叫ぶだけのヒロインなんてあたしの柄じゃないし。どうせ闘って死んでも夢の中！）
「おやあ？　泣いちゃったのかい？　お嬢さん」
　うつむいたのをそう取られたらしいが、
「たあっ！」
　横にいたチャッキーに裏拳を炸裂。
「ごはっ」
　顔面直撃である。
　アリサは飛び退いて、リール式のワイヤーを取り出した。怪盗御用達のあれである。
　迫り来る首無し警備員。
　アリサは美術館内の照明にワイヤを撒きつけそばの壁を蹴った。広い展示場内、ブランコのように体を揺らし、
「中々やるねえ、でも警備員に勝て」
「喋ってる暇、ある！？」
　ワイヤーに釣られたアリサは勢いをつけて、チャッキー・マウスに強烈な蹴りを一発。
「おぐっ」
　それから近くにあった大きな壺にワイヤを巻き付けて、それを起点にチャッキー・マウスもろとも、ワイヤーで縛り上げたのだった。
　着地したアリサはふうっと息をついた。
「それじゃ、あたしはこれで」
　アリサは後ろ髪をかき上げ、優雅に美術館を後にした。
　もうすぐ夢から覚めそうだ。
（しばらくふくびき屋は良いわね）
　息を吐いた。

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