ふくびきやの憂うつ｜リアクション

ふくびきやの憂うつ

　綾辻綾花は早川珪と共に、ふしぎなふくびき屋でがらがらを回した。
　出た目によって良い夢が見られるらしい。結果、ふくびき屋の主人に、「現代お色気だね」と言われたわけだが。
　いつの間にか閉じていた目を開けると、そこは寝子島ではないどこかの学校の中庭だった。
「ど、どこでしょう」
　人の気配はするが誰もいない。授業中なのだろうか。
「見たことがない建物だな」
　と、チャイムが鳴った。そして、
『皆さん、お昼休みになりました。今日はリクエスト曲を』
　お昼の放送が入ったかと思うと、校舎から見知らぬ男子生徒が歩いてきた。眼鏡に短髪、かなりのイケメンだ。
「綾辻、ここにいたのか」
　非常に馴れ馴れしいが、何故か彼の名前を知っていた。
「池野くん、でしたっけ」
　池野は頷いて、顔を赤くした。
「あのさ、話があるんだ。こっちへ来てもらえないか」
「あ、少し待ってもらえるか？」
　珪が少し慌てた様子で、割り込んできた。
「なんですか、先生」
　少し、迷惑そうにいうイケメン池野。なんで綾花といるの？　とでも言いたげだ。
「いや、綾辻さんとまだ話があるんだ。悪いけど。な？」
「！　そ、そうです。お、お昼休みは先生と約束があって。というか、先生……珪さんとはその……」
　卒業したら一気に関係が変わるだろう。なんとなく池野が好意を示していることはわかるので、早めに断らないと誰に対しても失礼だ。
「待った！」
　今度は後ろからの声に、綾花と珪は振り返る。
「綾辻さんは僕達と話があるんだ。池野君。あと、ついでに先生。席を外してもらえますかね？」
　恐らく、双子だろう。アイドル系のイケメン双子がポーズを決めていた。
「おい、強引に綾辻を誘うなよ」
　さらに現れたのは、サッカーボールを抱える男子生徒。これから部活の昼連だろうか。
「綾辻はオレと昼休みを過ごすんだ」
　綾花はおろおろするしかない。
「え、あの。誰とも約束してない、と思うんですけど」
　その時、中庭に吹き上げるような風が吹いた。
「きゃっ」
　綾花のスカートが豪快に舞い上がり、思いっきり……いわゆるパンモロ状態だ。
「綾辻さん」
　珪が綾花の手を握って駆け出した。
「わ、珪さん！？」
「約束」
「へ？」
「約束、誰ともしてないよな？」
　少しだけ複雑というか、不安そうな珪の顔に嬉しくなってしまった。
（気にしてくれてるってことですよね）
　綾花は頷く。
「もちろんです」
「こっちだ」
　追いかけてくる綾花狙いの男子達から隠れるため、空き教室へ。鍵をかけ、身をひそめる。

「綾辻、どこだ？　大丈夫か！？」
「綾辻さーん。返事してくれ」
「くそ、、まさか目の前でさらわれるなんて」

　そんな声を聞いて、綾花はむっとする。
「さらわれるってそんな言い方」
「店主がモテモテになるかもとか言ってたけど、こういうことなのか」
　苦笑を浮かべる珪である。
「もう、笑い事じゃ」
　そこで不自然に、バランスを崩してしまった。
「あ……」
「綾つ」
　不意を突かれて珪も対応できず、綾花が押し倒す形になってしまった。
「ご、ごめんなさい！」
　叫び気味だったのが良くなかった。
　部屋のドアが開いて男子数十人が入ってきたのだ。全員、綾花狙いなのだろう。
　男子達は口々に言う。
「せ、先生！？　良くないと思います」
「教師が生徒に？　ダメだ！」
「綾辻さんも、年上なんて好きじゃないですよ」
　綾花は拳を握り締め、立ち上がった。
「わ、私には好きな人がいるのでごめんなさい！　あなた達の気持ちには答えられません！」
　その瞬間、視界が歪んで。
　気付けば、そこは寝子島のどこかだった。
「あ、あれ」
　と、珪が頭をぽんぽんと叩いてきた。
「珪さん？」
「帰ろう」
　嬉しそうな笑顔に、少しだけほっとする。
「はい」

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