家族がたり　春風｜リアクション

家族がたり　春風

●極端な弟達を統率（物理）できる長男坊の弟がたり

　志波高久は、競輪選手仲間からおまえの家族ってどんな人か、ということを尋ねた。
　ストイックな高久の父。兄か弟がどのような人物か気になったから聞いてみたとのこと。
「俺の家族か？　両親は地元の福岡に住んでいて、大学生と高校生の弟は寝子島にいる」
　２人の弟のことに興味を示したのか、選手仲間は大学生の弟、どっちかの話を聞きたいと乗り気に。
　どっちの弟の話がいいのかと聞くと、まずは大学生の、志波武道の話をすることにした。
（武道のこと、なぁ……色々と心配になる部分も多いんだがな。ひとまず、話せるだけは話してみるぞ）

「大学生の弟、武道は弟離れできていないやつだな。元々は、両親が自分より弟に構う嫉妬から始まってたな。意地悪すれば怒られ、自身を見てもらえるからと」
　高校生の弟の反応が面白かったのか、構い倒して今に至るのは両親から「武道はお兄ちゃんだから」と言われ続けた、というのもあるだろう。
「自分を見てほしい……けれど、愛情に慣れてないやつだと思う」
　高久と武道は歳が離れているので、武道は自分も「弟」という自覚は薄いのかもしれない。
　そんな武道だが、ふざけてはいるが根は真面目。
　楽しいことが好きなのは確かだが、凹む時はとことん凹む。自身の行動に対する不安も常にあるようだが表にあまり出さない。
　特に、家族に対して弱みを見せるのを恥ずかしいと思ってるみたいだ。
「あと、役に入り込むのが異様に上手い。何なんだろうなアレは」
　役者志望なのか？　と突っ込みたいほどだ、と苦笑い。
「自分に対する頑張りは下手だな。他人が絡むと実力以上に頑張ろうとするけど」
　可愛い一面がある面白い弟、というのが話を聞いた選手仲間の感想だった。

「あとは……あぁ……武道が5歳頃だったか？　川で遊んでる時に溺れて死にかけた事があったな」
　あの時は、高久の一番下の弟も何もできなかった。
「幸いにも大人が救助と蘇生してくれたからよかったが……」
　武道が何か妙なものに引き寄せられやすかったり、飲まれやすかったりはそれが原因かもしれない。そう思うと、高久はぞっとした。
　兄として、いろいろと苦労してきたんだなと話を聞き終えた選手仲間は、高久に同情した。

　その後は高校生の弟についてと、福岡にいる両親のことを話した。
　すべての家族がたりを聞き終えた選手仲間は「まあ、頑張れ」と高久の肩をポンと叩く。

　高久がまだ話していないエピソードは他にもあるようだが、それはいつか、誰かに語るかもしれないだろう。

このページにイラストを設定する