双界の決戦　――界喰らいのグラトニエル――｜リアクション

双界の決戦　――界喰らいのグラトニエル――

●転：終わらせよう、この戦いを

　――混霊界：？　？　？

「寝子島への影響は？」
「テオドロスという神の一柱（※極天使たちはそう考えている）のろっこん？　とかいう御業によって今の所防がれています」
「だけど、制限時間があるんじゃない？」
「一先ずこの戦いが終わるまでは大丈夫だ。しかし……」
「えぇ、見ていたわ。明らかに舐めプモード解除しているわよね」
「対グラトニエルの結界はまだ解けていない。万が一の場合は冒険者達だけでも逃がすが……」
「そうなれば、我々を贄にこの世界の住人達を避難させよう。それぐらいの時間は作れるだろう？」
「はい。……しかし、ゲームへの影響は計り知れません」
「もう、俺たちに戦うだけの力はない。……今は冒険者達の武運と無事を祈ろう」
「そうね。……冒険者の皆さん、どうかこの世界を……」

＊＊　＊　＊

　冒険者とグラトニエルの戦いはそこからさらに激しい物になった。
　余裕ぶった表情の消えた女神は、１２人の冒険者達に容赦なく牙をむく。
　黒い靄は露草が持つスキルで妨害されつつも容赦なく体力を奪い、１つ、また１つとアイテムが消費される。都が仕込んでいたアイテムは幸い露草がスキルを使いフィールドから『盗む』ことで再利用が可能だったし、回復アイテムも少しは得ることが出来た。だとしても少しずつ回復が追い付かなくなる。
　グラトニエルが唯一の治癒士である夏朝を執拗に狙う事もあり、前線に立つ重戦士と軽戦士にとってとくに厳しい戦いになっていた。

　荒い息を吐きながらも、真白はウォーハンマーを構えた。
　目の前には、黒い靄を膨らませたグラトニエルがいる。
（また世界を食べるつもり？）
　そうさせない、と蒼留人と瑠樹とアイコンタクトで取り囲み、そこに都と碧南も加わる。
「えぇい！」
　瑠樹はピコハンを叩きつけ、その風圧で黒い靄を跳ね返す。その合間から放たれる矢は都が放った物だ。
（あの時止めビーム、プレイヤーにしか効果がなかったねー。もしプレイヤー以外にも効果があって、触れた人が止まらないんだったら足場作れたかもしれないんだけど）
　それを残念に思いながらも、近い距離から強力な一矢を放つ。
「弓手は！　近距離でも！　強いぞ！　むしろ近接のが強いまであるので！！」
『それはどうかしら？』
　グラトニエルの靄が都に襲い掛かる。咄嗟に前に出た蒼留人だったが、その靄が二人の前で止まる。死角から靄に入った夏夜が、強力な一撃を見舞ったのだ。
（これで止まる筈……！）
　黒い靄が霧散し、グラトニエルが悔し気な表情で後ろに下がる。結界で逃げることが出来ない上、前方には粘る冒険者達。今だ１人も戦闘不能に陥っていないのは、夏朝の奮闘と、エリアから回復アイテムを『盗む』スキルで取得、それを味方へ適度に『投げ』続けた露草、そして慣れた面々の的確な使用タイミングによるものだろう。
　だが、重戦士３人は常にぎりぎりの所で戦っていた。
「……全体的に体力が削れているな……。前線組はHPの残量が４割を切りそうだぞ」
　再びろっこんで愛馬を召喚し、中衛として奮闘する凜太郎に、レンガの建物から出てきた露草がふむり、と唸る。

（こっちの戦い方も、しましょうか）

　露草もまた状況を見、前線に加わる事に決めた。彼には『忍ぶ』という敵に発見されにくくなるスキルがある上、それと同じ特徴を持つ装備を身に着けているのだ。
「それなら……」
　スピカは露草に氷の装甲を与える。このスキル『アビスドレス』の効果は色々あるのだが、その中でも今露草に有難かったのは威力倍化である。
（確か、忍びの技も威力倍化の恩寵を受けるとありました）
　その間に、ウサギさんは無数のイバラとヒイラギをグラトニエルに纏わせる。微々たるものだが持続ダメージと速度低下及びMP吸収という非常に敵視点で煩わしい効果をもたらしているのである。