シャボンがぱちんと弾けたら｜リアクション

シャボンがぱちんと弾けたら

　梓智依子はすべり台の下で上に立った娘の楓に手を振った。
「受け止めてあげるから」
　少し高いと感じるのか、カエデが躊躇っていたので笑顔で手をこまねいた。滑り降りてきた楓をキャッチし、ギュッと抱きしめる。
「ママ、あったかい！」
　暖かくなってきたとはいえ、夕方になり冷えてきた。楓の手も冷たい。
「もう一回いい？」
「ふふ。じゃあ、最後ね」
「ママも滑ろ」
　当然、滑り台は子供用だ。いくら細くてもさすがに大人はお尻がハマってしまいそうだ。
　そんなやり取りをしていた時、滑り台の上にピエロの格好をした誰が立った。
「！？」
　智依子は慌てて楓をかかえて横へ避けた。このまま滑られたら、楓にぶつかってしまう。
　と、滑り台と向い合せのブランコに誰かが乗っていることに気づいた。
「え？」
　ブランコを飛び降り、滑り台の上のピエロと向かい合ったのは、やはりピエロだった。
「わー、サーカス？」
　先日、テレビでやっていたサーカスドキュメンタリーを思い出したようだ。
「たまのりするのかなー」
　楓は楽しそうに言うが、殺気に似たようなものを感じる。そして、ピエロ達はいくつものシャボン玉を作り出した。
「！」
　智依子が楓を庇いながら、後ろへ飛ぶ。炎が弾け、滑り台周りが火の海に。
「ちょ、ちょっと」
　ブランコ側のピエロからトゲトゲシャボン玉が大量に放たれたので、慌てて走り出す。公園内のベンチの後ろに滑り込むと園内が地獄絵図だった。
「嘘でしょう？」
「ママ、見えない」
　楓を抱きかかえて、様子を伺うが、ピエロのバトルは収まりそうにない。
「もう……！」
　迷ったあげく、私が取った行動は。
清掃用のゴムホースを手に水飲み場へ向かい、ホースを蛇口に装着。これでピエロたちに水を浴びせてバトルを中止させる。
　お互い食って掛かろうとするピエロたちに、
「いい加減にしなさい！　ここはみんなが遊ぶ公園よ！　こんなところで大暴れするなんて何考えてるのよ！」
と、全力でお説教。
　正座をして項垂れるピエロに、楓が心配そうに見つめる。
「ママ、はんせいしてるみたい」
　智依子はため息。
「何か事情があるのかもしれないけど、次はやめてね」
　ピエロはこくこくと頷いた。素直だ。
「なら、帰ってよし」
　するとピエロが青いシャボンをパチンと弾けさせた。
　そして、彼は去って行った。
「ねぇねぇ、ママ。さっきのベンチでこれ拾ったの」
「ん？」
　楓が差し出しできたのは財布だった。
「お財布？　帰りながら交番に届けましょ」
「うん」
　近くの交番にて。
　財布を落としたらしい老紳士と鉢合わせた。
「おや、こちらの方が丁度お財布を探していまして。ありがとうございます」
　お巡りさんがにっこりと笑う。
「おお、お嬢さん方ありがとう」
　老紳士は嬉しそうだ。
「はい！　公園に落ちてたよ」
　楓がいう。
「そうかいそうかい。助かったよ。えーと、よかったら、妹さんと美味しものでも食べてください」
　しっかりとお礼を頂いてしまった。
「あ、ああ。ありがとうございます」
　完全に姉妹に間違われたようだ。
「それでは」
　帰りに、二人でファミレスに寄った。

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