シャボンがぱちんと弾けたら｜リアクション

シャボンがぱちんと弾けたら

　月原想花は、買い物メモを持って、猫鳴館を出た。
（買い物当番、すっかり忘れてた）
　出発がかなり遅くなってしまったので、早足に、『賞味期限切れ寸前の食料品を投げ売り価格で売っている店』へ急ぐ。
「ん？」
　細い路地、近道を歩いていると、口元が常に笑っている目つきの悪いピエロの格好をした誰かが歩いてくる。
（うわぁ……）
　どう考えてもおかしな人だ。というか、何故ピエロなのか。
「え」
　手招きをするピエロ。すると、黒いシャボンやピンクのシャボンを吹き付けてきた。それらは想花の前で一斉に弾け、それと同時にピエロの姿も消えた。
「なんだ……？」
　疑問に思ったものの、
「まずい、時間が」
　慌てて路地を抜ける。想花は急いで店へ向かうのだった。

　店内にて。
　想花は入口から入って、投げ売り食料品の巨大ワゴンに一直線に向かった。
「あ、これ。この前美味しかったんだ。こっちは今までで一番安い」
　結果、戦利品が非常に多い買い物だった。かごに詰め込んで、レジへ向かう。
（今日は運がいいのかもしれない）
　なんとなくいい気分になりつつ、財布を開くと、札が一枚もなかった。
（！？）
　購入代金として預かった寮のお金が何故か消えていた。しっかり財布にしまったはずなのに、落とすなんてことがあるだろうか。
「お客様？」
「はひっ！　す、すすすみません。ええっと、じゃあスマホで」
　ネット決済を利用することにする。
（大丈夫、払える金額だし、後で交番にでも）
　震える手で操作していたのが良くなかった。
「あ！？」
　手から滑り落ち、床に画面から落としてしまった。ガシャンという良くない音がし、スマホの光が消えた。
「お、お客様……」
　レジ店員の、心配と不安の眼差し。
「すみません、お金下ろしてくるので！」
　どうにか近くのコンビニでATMを利用し、結果的に支払うことが出来たのだった。
　店を出てレシートを確認する。
「はぁ、驚いた。ダメ元でも交番に寄って行こうか。……って！　ニ万五千円！？」
　お安くなった商品が入っているワゴンのものしか買っていないはずなのに、何故こんなに金額がいっているのか。その原因は、
「なんでセールのワゴンに一万五千円の高級メロンが！？」
　その後、急いで返品したので事なきを得たのだった。

　ようやく帰路に着いた想花は肩を落とした。
「どうなってるんだ……。寮のお金も見つからないし」
　このままだと自腹を切って立て替えたまま、戻ってこないかもしれない。
　と、目の前に大きな影が立った。
「何ガン飛ばしてんだよ、てめぇ」
「え……」
　明らかに不良男子が睨みつけられていた。
「この野郎、喧嘩売りやがって」
「野郎って！？　いや、ぼくはじょし」
「ぼこぼこにしてやんよ！！」
　殺意マックス。
　想花は慌てて駆け出した。
「じょ、女子！　女子なんです、ぼく」
　限りなくユニセックスな服装と髪型が良くなかった。一人称も相まって、まったく信じてもらえない。
　逃げ回り、どうにか不良達を撒いたところで、唐突に躓いて道を歩いていた女性に顔からダイブしてしまった。
（あ、柔らか）
　非常にふくよかな膨らみである。
「きゃあああっ」
　ばちんと頬に手形。
　地面に倒れ込む想花。
　なんとなく思った。
（たまには私服でスカート履くのも悪くないかもしれない）
　見上げると、空にふわふわとシャボンが漂っていた。

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