シャボンがぱちんと弾けたら｜リアクション

シャボンがぱちんと弾けたら

　稲積柚春は休日のその日、ウォルター・Bと歩いていた。お互い買いたいものが溜まっていたのでお買い物デートだ。
「わ、なんかのイベントかなぁ」
　お店が並ぶ街中に漂っているのはシャボン玉のようだった。
　宙を漂うそれを覗き込むと虹色の透明な球体の中に自分が逆さまに写っていた。
「綺麗だねぇ。お、これはこれで」
　ウォルターの目の前に現れたのは緑色のシャボンだった
「一色の、シャボン玉？」
　虹色すらない、透明な緑色の球体はシャボン玉に見えないが太陽の光に輝いてとても綺麗だった。
「どうやって作ってるんだろうねぇ」
　ウォルターは興味深げに言う。
　すると唐突に、彼の前で緑色シャボンが弾けた。
「おお、びっくりした」
「あはは。はい、ハンカチ」
　顔に跳ねたかもしれないそう思ってウォルターに差し出すと、すぐに受け取ってくれた。
「ありがとう。んんっ」
　ウォルターがびくっと体を揺らした。
「ワット？」
　ふらふらとして、近くのベンチに座り込んでしまった。
「大丈夫？」
　気分でも悪いのかと心配したが、顔色は良さそうだ。
「ああ、ごめんごめん。なんでもない。でも、稲積に触れたところがじんわりと暖かくて、気持ちいいんだよねぇ。マッサージされてるみたいな」
「そう、なの？」
　マッサージと聞いて、そっとウォルターの肩に触れてみる。
「あー……。肩こりなんてしてないはずなんだけど、凄く気持ちいい」
　周辺を見ると、単色のシャボン玉が弾けると同時に皆の行動が変わってしまったりしていた。謎現象である。
　ウォルターの肩をもみながら訝しげにしていると、目の前でピンク色のシャボンがぱちんと弾けた。
「ん、何……」
「稲積、ちょっと」
　気づくと、柚春自身がウォルターに近づき過ぎて、胸に顔を埋められていた。
「あ、ごめ」
　慌てて離れた表紙にベンチの手すりに服の裾が引っかかり、ちらりとおへそが見えてしまった。慌てて、服を直す。
「大丈夫かい？」
「う、うん。びっくりしたけど」
　何かが変だ。そう思って辺りを見回すと、シャボンのせいで奇行を繰り返す街の人達。そしてその中心には2人のピエロが対峙していた。言い合いをしているようだが、内容まではわからない。
　なんとなく察した。きっと、あれが原因だ。
　ピエロ達はシャボンを使ってコミュニケーションを取っているようだ。
「ちょっと、喧嘩はだめだよ！」
　叫んでみる。
（僕の声、聞こえてない？）
「シャボン玉を作ってみれば何か伝わりそうだけどねぇ」
「確かに。ええっと」
　急いでおもちゃさんを探し、飛び込んだ。シャボン玉セットを購入する。
　そして、
「ねぇ、見て！」
　柚春はそうピエロ達に声をかけてシャボン玉を吹いて見せた。即席で作った穴開き下敷きにシャボン液をくぐらせ、小さなシャボン玉をたくさん作る。するとピエロ達はその様子に見とれているようだ。
「こっちは大きいのを作るねぇ」
　ウォルターも巨大シャボン玉作りセットを手にしていた。
「ワット、上手い」
　加勢してくれたウォルターはウィンクをしてみせた。
　ピエロ達は顔を見合わせる。
「二人はシャボンが好きなんだよね？　なら、上手く扱えるはずだよ。皆で楽しく遊ぼうよ」
　そんなふうに言ってみたものの、さっきのハプニングの時のウォルターの表情が忘れられない。
（シャボンの力がなくても、いつかきっと）
　ウォルターも、きっとまんざらではなかったはずだ。柚春はなんとなく、そう思った。

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