真紅の月｜リアクション

真紅の月

　紅の月も沈もうとしていた。だが月はあがくかのように、なおも紅い光を強く投げかけてくる。
　真白と別れて歩いた陣は、給水塔のところで探していた『彼女』を見つけた。
　使われてなくなって久しいいわば遺物だ。赤錆だらけで傾いており、周辺を安全柵で囲われている。近いうちに取り壊し工事がはじまるらしい。
　給水塔に紅い影が伸びている。
　ふたつ。
　ひとつは陣自身のもの。
　もうひとつは『彼女』のもの。
「なあ」
　陣は呼びかけた。
「そこの人、こんな夜更けに散歩？　未成年やろ？　まあ僕もそうだけど、あんま褒められたもんちゃうよねー」
「家まで送っていってくれるの？　それともナンパ？」
「どっちもハズレ。ちょっと質問したくて」
　いいよ、というかわりに少女は振り向く。
「じゃあ質問するよ。世間体的にも、一般論としてもさ、男が女の子ぶん殴るとかってよくないよねー？」
「うん。よくないと思う」
「でもなその相手が、いたいけな少女を操作して、アイスピックだの金槌だの渡して他人を……よりによって少女の親友をケガさせようと試みる悪党、しかも高みの見物を気取るクソアマだったら、話は別やと思わんか！？」
　陣は目を怒らせ息を詰めた。
　紅子の話では、『彼女』は撒いた水を瞬間接着剤に変える能力をもつという。まだ陣は、『ろっこん』クロックバーストが使える状態だ。
　まずは話す。僕だっていきなり殴ったりはせん。腕力に訴えるのは最後の手段や。
　言い分によっては諭すだけで終わらせる。ていうかそうしたいよ本当。
　でも少しでも怪しいそぶりが見えたら……こちらも実力行使するほかない！
　来るなら来い。
　こっちも覚悟しとるからな。
　だが目の前の彼女の反応は、陣の予想とはまるでちがっていた。
「そんな悪い女の人がいるの！？」
　ぐっと左右の拳を握って少女は言ったのである。白いワンピース、長い緑の髪、瞳の色もエメラルドグリーンだ。よく見ると裸足で、しかも地面から少し浮いているではないか。
「私、正義の味方ごっこやっちゃだめってカレシに言われてるけど、協力くらいだったらするよ！　その悪者探すの？」
　素性を隠す気はないのだろう。風の精晴月は、すいーっと滑るようにして陣の目の前まで流れてきた。
　え？　なになに？　なに？
　僕、声かける相手まちがえてるっぽい！？
　ていうかこの子、飛んでる？
　頭の中は疑問符だらけ、
「もっと聞かせてその話！　あっ、きみ私のこと見えるんだね今気づいたけど。あー、あれだ。『へんこ』？」
　おまけに晴月には質問攻めで、疑問符の数はさらに倍といったところだ。陣はもはやしどろもどろで、
「えっ、あー……きみのこと、前に見かけたことがあるよ」
　と言うのが精一杯だった。