ハッピーバースデー！　３月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　３月☆

３月　１４日：ヒュー・ヒューバート

「おはようございます」
　ヒューがシーサイドタウンのスタジオに入ると、モデルであり恋人である城山水樹が微笑んで手を振っていた。衣装合わせの途中だったのだろう。可憐な浴衣姿である。
「とても似合っているよ、水樹」
「うふふっ、ありがと」
　この二人、実はちょっと色々あり、すれ違いが生じていた時期がある。だが、徐々に関係を修復しつつある。
（そういえば、去年の誕生日は一緒に過ごしたのよね）
　水樹がヒューを見つめると、僅かに彼の頬が赤くなる。どうやら同じことを思い出したらしく、なんだか付き合い始めたころのような気恥ずかしさがほんのり沸き起こった。
　今日の仕事は、寝子島ラムネのイメージガールに選ばれた水樹を起用した今年のポスター用の撮影である。
　フォトグラファーはヒュー。彼は的確な指示で魅力的な一枚をファインダーに納めていく。
「目線はここ。……そう、いい笑顔だね」
　ヒューの指示に従い、ポーズを決めて。その一瞬を逃さぬようにシャッターを切る。
（あぁ、やっぱり彼女は魅力的だ）
　ヒューはファインダー越しに輝く水樹の姿に、少しだけ感嘆の息を吐いた。
　撮影を終えるたびに、いっしょに写真を確認し修正方向についても他のスタッフを交え話し合う。僅かに視線が合えば、ほんのりとした温かさを感じる。
　けれど、撮影となれば互いにプロだ。むつみ合うときではない、と内心で頭を振る。
「さっきの一枚、とてもよかったけどもう少し自然な笑顔が欲しいな……。ラムネを飲むような角度で行こうか」
「じゃあ、一本開けますね。……うん、おいしいっ」
「その顔いいですね」
　スポンサーの意見も取り入れ、撮影クルーがスクラムを組んで『寝子島ラムネ』のイメージに合う一枚を目指す。水樹もヒューも、その熱気を肌で感じながら仕事に集中する。
　そんなこんなで、撮影は夕方までかかったのだった。

「「かんぱーい」」
　仕事を終えた二人は、せっかくだからと旧市街の居酒屋で飲むことに。
　ぬる燗と適当に頼んだつまみを口にしながら、賑やかな喧噪の中で他愛もない会話を楽しんでいると
「ねえヒュー、この揚げ出し豆腐おいしいわ」
　と勧めてくる。
「へぇ……」
　ヒューはさっそく食べてみると、出汁の豊かな風味におもわず顔が綻んだ。
「確かに美味しいね」
　目が合えば、水樹もまたにこりと微笑む。
　そこから「卒業式には何を着るんだい？」と水樹に話を振った事で互いに近況を語らった。自分が大学を卒業した時の話をすれば、水樹は興味深そうに聞いていた。
「大学を卒業して、専業モデルになるのだけどなんかこう、実感がないのよね」
　そう苦笑する水樹に相槌を打ちながら思う。こんなに話すのは久しくなかった、と。
「ヒュー」
　不意に名前を呼ばれる。視線を彼女に向ければ、優しい眼差しと重なる。
「誕生日、おめでとう」
「ありがとう、水樹」
　彼女からの祝福に、ヒューは素直な気持ちで礼を述べた。
　この優しい時間は、もうしばらく続きそうだ。

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