卒業～らっかみの願いを叶えて～｜リアクション

卒業～らっかみの願いを叶えて～

　春の寝子島～先生たちにバカバカしいどっきりなイタズラをしたい！

「ドッキリ？　野々も遊び心溢れてんなぁ」
「そうだよ、遊び心なかったらつまんないもん。私、遊び心は、溢れまくりだよ！」
　野々ののこと桜井ラッセルの教室は隣同士だ。休み時間に廊下で偶然出会ったののこから、先生にイタズラをしてみたい、と持ち掛けられたラッセルは思わず口の端をあげた。
（イタズラなんて男子や小学生まで、っていうのは流石に野暮か。俺もワクワクしてるし）
「いいじゃん、俺もつきあうよ。でも不幸になるとか、服を汚したり、不快にさせたりするのは止めようぜ。卒業できねーかもよ」
　ラッセルが脅すような笑みを浮かべると、ののこはぶるるっと肩を揺する。
「もちろん！　楽しいのにしよう！　ラッセル君、何かいいアイデアはない？」

「びっくりや幸せになれるドッキリがいいよなぁ……」

　ののこがクラスメイトの何人かに協力を頼んでいる間に、ラッセルはいくつか案を出した。教壇の下に隠れて先生を驚かすとか、先生に甘いラーメンとかうんと酸っぱいキャンディなどを食べてもらう味変ドッキリとか、定番だけど教室の扉に小さなゴムボールを仕掛けるドッキリ、クラスみんなで教室から雲隠れして誰もいないドッキリ、だるまさんが転んだ風に先生が黒板で書いてる時にみんなで近づいて、いつ気づくかドッキリ……。
　そんないろんな案の中で、ののこが一番気に入ったいたずらを仕掛けたのは、その日の帰りのホームルームのときだった。
「はーい、みんな席についてください！」
　ののこの担任、雛鶴さゆり先生は今年赴任して来たばかりの新米先生だ。擦れていなくて可愛らしいが、裏を返せば騙されやすいとも言える。どっきりを仕掛ける相手としては最適だ。
　教卓には一冊の本が、これ見よがしに置かれている。
「あら、この本誰のかしら？」
　さゆり先生は何げなく本を開く。
　その瞬間！
「きゃあっ！」
　本のページの間から、ぱたぱたと勢いよく飛び出す蝶。
「おもちゃ？　びっくりしたっ！」

　実はその蝶、手先が器用なラッセルの手作り。
「スマホ見て作ってみたかったんだけさー。簡単に言うと針金と紙で蝶の土台を作って、中央に結んだ輪ゴムをネジってセット。放すことで飛ぶ仕組みなんだと」
　ホームルームが終わったあと、さっそく隣のクラスに成果を聞きに行ったラッセルは、ののこからドッキリ大成功の知らせを聞いてガッツポーズをした。
「もう。あなたの仕業だったんですね！」
　まだ教室に残っていたさゆり先生が、めっ、と睨む。
「ちょっとしたお茶目だって。先生本当ごめんなさい」
「許します。それより、これ、私にもらえませんか？　色遣いがとっても綺麗」
　もちろんだ。ラッセルは蝶のおもちゃをさゆり先生に喜んで進呈した。
「ラッセル君、私も欲しい！」
「わかったよ、野々の分も作ってやるって」
　自分の作品を請われるのは、ラッセルにとっては嬉しいことだ。
（へへっ、野々、笑ってる。これでまた一つ、やり残しができた、かな）

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