キミは、俺の、ろっこんさん！？｜リアクション

キミは、俺の、ろっこんさん！？

　◆キリがない！

　彰尋には夢がある。役者になるという夢だ。大げさに叫びこそしないが、彼の中に、堅く、大きく在る夢だ。ピンクの小象たちはその夢の匂いをかぎ取り、洋二から彰尋へとターゲットを移してゆく。

「消えろ、消えろ、つかの間の燈火（ともしび）！」
「人生は歩きまわる影法師、あわれな役者だ。
舞台の上でおおげさに見栄をきっても
出場が終われば消えてしまう」

　風格ある老アオのセリフに続き、彰尋もシェイクスピアのセリフを諳んじる。
　そうして夢を膨らませた彰尋は、普段から持ち歩いているソーイングセットの中の針で、近寄って来たピンクの小象たちを一体ずつプスプスと刺した。それは、地味ではあるが確実な方法だった。
「ふぅ、ひとまずこの教室のピンクの小象は対処できた。これで鷹取さんはしばらくは大丈夫じゃないかな」
「助かったわ」
　碧南は彰尋に礼を言った。
「羽生さんはここに残って鷹取さんを守るといいよ。ドアと窓は開けないで。そっちの彼もいるから、大丈夫だよね」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってる。『恋する乙女は傷つかない』んだぜ？」
　碧南のろっこんさんであるショウは、そう言って鼻を鳴らす。
　彰尋は頷く。大丈夫だ、彼女たちは強い。
「じゃ、俺たちは行くよ。他の人と合流して、何か出来ることがあればやってみる」
「わかったわ。気を付けて」
　廊下の喧騒がにわかに激しくなる。
　彰尋は小さく会釈をし、老アオとともに教室をあとにした。

　廊下でピンクの小象の群れと戦っていたのは、椎井莉鳥とボディラインも露わな際どいドレスに身を包んだ美女――莉鳥のろっこんさん、エレクトラであった。
「アッハハハハハハ！　ゴミ屑の分際でアタシの前に立ちはだかろうだなんて百年、いえ、千年早いのよ！」
　エレクトラは見た目も中身も攻撃的で、嬉々として電流網を放ち、ピンクの小象を感電させて爆破していく。エレクトラが電流網で無双し、莉鳥はエレクトラが取りこぼした小象へ指先を向け、ろっこん《スタンハンド》で電気を放って始末するという戦術で、ふたりは息の合ったところを見せていた。
　しかし莉鳥は思わずにはいられない。

「私のろっこんが擬人化したようだけれど、私ってそんなに攻撃的な性格だったかしら？」

　愛想が悪く無口でクール。それが自他ともに認める自分の性格だと思っていたが……エレクトラのような気性が、実は潜んでいるのかもしれない。
「それにしても」
　エレクトラの強さは折り紙付きだが、やっつけてもやっつけてもピンクの小象は沸いてくる。
「数が多いわ。いちいちマトモ相手にしていられないわね」

　そこに、廊下に出てきた彰尋と老アオが合流した。また別の方向からは、七瀬と空読、蘭月と絡満姫も走ってくる。
「よかった、みんな無事やね？」
　息を切らした蘭月が破顔する。
「無事ではあるが消耗はしておる。戦いを長引かせてはいかん」と老アオが答える。
　そのとき、二つほど向こうの教室から、七夜あおいと、あおいにそっくりだが髪型だけポニーテールの少女――あおいのろっこんさん・オトメさんが、ピンクの小象にまみれて飛び出してきた！
「もうっ！　寄ってこないでってば！」
「あおいさん！？」
「あっ、彰尋くん！　それにみんなも！」
　ほっとしたのか、あおいとオトメさんは笑顔になって駆け寄ってくる。
「このピンクの小象、なんとかしたいんだけど、私の《カジバオトメ》じゃふわふわぽよぽよした風船みたいな小象さんを押しのけたり投げ飛ばしたりするくらいしかできなくって」
「それだとキリがないの！」

　キリがない。それは、この場にいる誰もが感じていることだった。
「疲労する分、こっちが不利です。一気に追い払う手段があればいいっちゃけど……」
　そう七瀬が口にした瞬間、鴻上の脳裏にある考えが閃いた。
「そうだ、この作戦なら……」

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