キミは、俺の、ろっこんさん！？｜リアクション

キミは、俺の、ろっこんさん！？

　◆プロローグ～ろっこんさん！？

「キャーッ！　なんやのもう！！」
　切り分けられた世界の寝子高の、３年生の教室から、四野辺蘭月の悲鳴が響き渡る。
　蘭月の周りにはピンクの風船――いや、ピンクの小象がまとわりついていて、溺れそうになっている。
　３年生は自主登校になっているので授業はないのだが、蘭月はその日たまたま学校に来ていた。卒業展示をしている自分の教室で、「もうすぐ卒業かー」なんてしんみりと窓の外を眺めていたらまさかの神魂現象だ。学校の上空に寝子高校舎と同じくらい大きなピンクの象――ビッグピンクエレファントが現れ、すぐさま校内にもいっぱいピンクの小象が入ってきて、それから、

　――とりあえず世界は切り分けた。あとは任せたぜ！

　ってテオの声が聞こえて……。

「パティシエになりたい、お金持ちになりたい、バストもサイズアップしたい！
たしかにあたしは夢いっぱいや！　だからなんか？　だからあたしにたかってくるんか？」

　そう言っている間にも、ピンクの小象は次から次へと寄ってきて、ぐいぐい蘭月の身体やら顔やらを覆ってゆく。
「あ、あかん……このままじゃ、い、息が……あたし、こんなとこで死ぬん……？」
　気が遠くなりかけたそのときだった。
「しっかりせんか、蘭月」
　ピンクの小象が細い腕で押しのけられ、蘭月はリボン巻いた小柄で姫っぽい女の子に助け出された。
「おおきに！　生き延びたわぁ！　……えっと、誰？」
「ふむ。分からぬなら教えてやろう。わらわは絡満姫（カラミツキ）。そなたのろっこんじゃ」
「絡満姫ちゃん……って、ええっ！　《カラミツク》が擬人化しとぉの！？」
　そうじゃ、と答える絡満姫の声に交じって、なにか呻くような声が聞こえてくる。
「……う……うう……」
　声は廊下から聞こえる。蘭月と絡満姫が廊下に飛び出すと、ピンク小象の群れに体中を覆われた人が廊下でふらついているではないか。
「絡満姫！　このままじゃあの人窒息死や！　なんとかでけへん？」
「任せるのじゃ」
　そういうが早いか、絡満姫の体中に巻かれたリボンがくるくると解かれた。
　リボンは自在に動いて、ピンクの小象に巻き付き、まるで生きた蔦植物のように小象を投げ飛ばしてゆく。
「ぷはっ、助かりました！」
　中から出てきたのは卒業展示を見に来ていた卒業生の倉前七瀬と――
「その子、アンタの子？」
「え？」
　――５才くらいの眠たそうな目をした少年だった。

「そっか。その子がアンタのろっこんさんなんやね」
「そうみたいです……」
　七瀬は少年を観察しながら答える。彼は、七瀬に面差しが似ていた。瞳は緑で、猫っぽい感じである。言葉は分かるようなのだが何もしゃべらないので、頷いたり首を振ったりで意思疎通している状況だ。
「名前がないと不便ですね……僕のろっこんは《空気を「読む」》ですから、ひとまず空読（そらよみ）君とお呼びしてもええでしょうか？」
　七瀬が少年に尋ねると、少年はコクリと頷く。
「ろっこんさんはな、自分のろっこんに似た能力を持っとるみたいや。この子はなんやろな」
　蘭月は少年の頭を撫でるが、空読はこてりと首を傾げるばかりだ。
「……と、感心しとる場合じゃなかった。ピンクの象をなんとかせんといかんのですよね」
「せや。空に浮かんどるのがボスや。あいつを倒さんと元の世界に戻れんで」
「見た目は可愛らしいですけど、ピンクの象って確かアルコールとかで酔った時にみる幻覚症状のことを指す言葉らしいですし、数が多いとちょっと不気味ですね」
「そんな悠長なことゆうとる場合か。ピンクの小象がまた来たで」
　ぱおん。
　ぱおん。ぱおん。
　ぱおん。ぱおん。ぱおん。ぱおん。
　人間の夢や希望が好物らしいピンクの小象たちは、キュートな鳴き声をあげてふわふわ、ふわふわ。
　群れになって漂ってくる。
　七瀬の言う通り、可愛いだけに、異様だ。

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