バトル・エアーが吹き荒ぶ｜リアクション

バトル・エアーが吹き荒ぶ

「ユズハ、あぶないよー？」
　風に乗せて届けた晴月の声も、柚春の耳には入らないようだ。
「うん？　何か騒がしいねぇ。やあ、戦う女性もまた美しいものだよね」
「せめてこっちを向いて言ってよ、ワット！！」
　切り裂く稲妻が氷のブレスを吐きだす首を直撃し、消失させた。火力は十分、しかしやはり首はすぐにも再生してしまう。
　晴月は困ったように眉をひん曲げて言った。
「ユズハたち、だいじょうぶかなー。ドラゴンにつぶされちゃわないかなぁ」
「晴月、危ねぇ！！」
　はっとした時には遅かった。鎌首をもたげたヒュドラーの吐きだす紅蓮の奔流が晴月を飲み込む……その直前に飛びこんだラッセルがその身体を突き飛ばし、代わりに猛火に包まれた。
「ラッセル！！」
「あ、熱っちぃ！　つつつ……晴月、ケガねーか？」
「うんっ。うんっ」
　ボブルヘッドのようにうなずきを繰り返す晴月だが、煤けた頬をして弱々しく笑んだラッセルに、普段は見せない怒りの顔を浮かべた。
「ラッセルに……何するのーーー！！」
　晴月の感情の昂りに呼応してか、深緑が渦を巻く。たちまちごうごうと轟くハリケーンとなり、唸るドリルとなってヒュドラーへ叩きつけた。胸元を突いて貫通した竜巻は弧を描いて天へと昇り、雲を抜けていった。
「すごい攻撃だね。しかし、やはり再生してしまうか」
　豪風の名残りに髪をなびかせ、サキリは目を細めてヒュドラーを睥睨する。
「ラッセル、だいじょうぶ！？」
「ああ、何てことねー。心配してくれてありがとな、晴月」
　バトル・エアーは誰にもヒーローさながらの頑強なボディを授けてくれるらしい。ラッセルは力強くうなずいた。
「さて……やってもやっても復活しちまうわけだが、どーする？」
「うん。それなんだけど、僕の相棒が解決してくれるかもしれない」
　サキリにラッセル、晴月の視線が集まるところには、得意げに胸を反らした蛇腹剣の付喪神、彼女がいた。
「我が力を貸してやろう。そなたらが与えた傷を我の炎で焼き焦がして塞ぎ、再生を阻むのだ。英雄譚のごとくにな！」
　作戦は定まった。全員が多頭竜を見上げ身構える。なお不確定要素もあるようだが、ラッセルの苦笑いまじりはそう憂慮している風ではない。
「あー。稲積たちのつけた傷も焼いちまってくれるか？　ケンカしてるだけに見えてすげー強ぇっぽいし」
「ま、よかろう。任せよ」
　彼らの痴話ゲンカ？　もまた巨竜打倒の一打となるだろう。

「ああっもう、うるさいなぁ！！」
　柚春は今さらながらにヒュドラーの巨大な姿に気づいたが、意にも介さず。バトル・エアーの働きで得た電撃放射を容赦なく浴びせる。効果が薄いと見るや、雷を束ねてボール状に成形し始めた。
「お、器用だねぇ。すごい電圧」
「そりゃもう、誰かさんのせいでフラストレーションが溜まってるからね！　ほらワット、ちょっと手伝って！」
「はいはい」
　生み出した雷球を二人、左右から同時に蹴り出した。ニャプテン翼ばりのツインショットだ。
「いっけええええええ！！」

　唸りを上げて放たれた轟雷は今まさに凍てつく吐息を吐き出さんとした首を貫き、背後のビルまでも貫通した。
「そこだ、焼け爛れよ！！」
　炎が鞭のように翻り、すかさず首の切断面を焼き焦がす。なるほど、焼いてしまえば首は再び生え伸びることもないようだ。
　サキリのマチェットが赤刃と化し、二本の首を斬り飛ばす。即座に炎が伸び傷口を塞いだ。一つ、また一つと首を潰してゆく。
　我関せずと街の破壊にご執心であったヒュドラーも焦燥を感じたか、首を振りたくりブレスを吐き散らして彼らを蹴散らさんとするも、時既に遅し。であった。
「あれが最後の首だ！　晴月、いっちょデカイ風を頼むぜ！」
「うんっ、分かった！」
　ラッセルは槍を構え、晴月の巻き起こす猛風を背に受け身を任せる。
「うおおおおおおーーーっ！！」

　風翼緑槍から発する突風の推力も上乗せして、ロケットもかくやと突撃するラッセルの繰り出す槍先が、最後の首を見事に貫いた。

　柚春とウォルターは街を行く。
「はー、これでやっとデートの続きに戻れるね。ワット♪」
　彼の腕を抱き込み柚春は微笑むが、バトル・エアーはまだ彼に影響を与えていたらしい。
「そうだねぇ。おっ、なかなかいいヒップの女の子が」
「いい加減にしなさいっ！！」
　激しいツッコミで地面にメリ込んだウォルターに、晴月は朗らかに笑った。
「やったな、みんな！　そんじゃ俺たちも、ほら。デ、デートの続きといくか、なあ晴月」
「うん、いこういこう」
　ヒュドラーの亡骸は炎と風に包まれ跡形もなく消えてしまった。仲むつまじく歩き出したラッセルたちを見送り、サキリも相棒を振り返る。
「さて、僕らも行こうか。食事でもどうだい？」
「確かに腹が減ったな。飯にしよう！　奢れ！」
「奢るのはいいけど、君は大食漢だからなぁ……あまり高い店は勘弁してほしいね」
　焼肉にしようかそれとも寿司がいいだろうかと迷う彼女のどこかあどけない顔を、サキリは微笑ましく見つめた。

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バトル・エアーが吹き荒ぶ

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