寝子島シーサイドアウトレット　スプリングセール｜リアクション

寝子島シーサイドアウトレット　スプリングセール

◆新たな一面

　水上桜はスプリングセール中の寝子島シーサイドアウトレットにやってきた。なにか春物で手頃なものがあれば買おうかな、とぼんやり考えていた。人混みを避けつつ適当にぶらついていたら、ふと誰かが自分を呼んでいる気がした。

（こんなところで呼ばれることもないか）

　しかし再び呼ばれた気がして、耳を澄ます。

「桜！」
「この声、もしかして……」

　ゆっくり振り向くとそこにいたのは彼氏の滝沢匠だった。まさかここで出会うとは思いもしなかった。

「滝沢君もスプリングセールで？」
「ああ」
「それなら一緒に買い物する？」
「もちろん」

　突発的にデートになったけれど、それはそれでよかった。最初に寄ったのは『キャットスター』。星を抱えた猫のロゴが有名な、カジュアルなシューズ専門店。桜はそこで掘り出し物の靴を見つけたので即決で買った。匠もお目当てのスニーカーを安く手に入れたようで満足そうだ。
　靴屋で十分な収穫を得た２人が次に向かったのは『Tシャツつかみ取りセール』だった。

「このつかみ取りセール、ビンテージ品とかも交じってるからすごい人気なんだよね」
「へえ」

　Tシャツなら水泳部の練習などでも使えるし、普段使いでも重宝するから当然参加の一択。匠も面白そうと思って参加表明。しかしセールの一角はすでにかなり混み合っている。さながら戦場のような様相だ。中身を吟味している余裕はないだろう。
　２人は顔を見合わせ、小さく頷き合うとそのなかに飛び込んでいった。

（思ったより、きつい……）

　桜は人の波に流され押され、それでも懸命に腕を伸ばして何着かつかみ取った。離脱すると大きく息を吸った。そんな彼女のもとに匠もいくつか戦利品を握って戻って来た。
　入手できたものを確認すると桜は５着、匠は６着あった。単色のものが占めるなか、桜の手には鬼面タイガーのＴシャツがあった。

「これ、いる？」
「うん」

　匠は嬉しそうにそのＴシャツを受け取った。代わりに匠からはターコイズブルーのＴシャツをもらった。買い物もひと段落ついて中央広場に向かうと鬼面タイガーショーが行われていた。新旧の鬼面タイガーが勢揃いしていた。

（そういえば滝沢君、鬼面タイガーのＴシャツ欲しがってたからもしかして好きなのかな？）

　それとなく水を向けると、やはりそうだったので一緒に見ることにした。
　桜には鬼面タイガーたちの違いはよく分からなかったが、隣で楽しそうにショーを眺めている匠を見て嬉しそうにほほ笑んだ。

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