寝子島シーサイドアウトレット　スプリングセール｜リアクション

寝子島シーサイドアウトレット　スプリングセール

◆想像を超える混雑を経て

　倉前七瀬はニャレッジヴァンガードでセールをやっていると聞いてシーサイドタウンのアウトレットにやってきた。

（せっかくやけん、この機会に本を買いたいと思います）

　えいえいおーと心で唱え、意気込みは十分。しかしアウトレット内は普段では考えられないほどの混み具合だった。

（えぇええぇ、こげん人の多かとですか！？　いつもの倍以上人がおる気が……）

　春の大型セールはニャレッジヴァンガードだけではない。各テナントで大幅値引きが行われており、それぞれの店舗に人々が押し寄せている。あまりの多さに気圧されそうになる。

（しかし、ここで怯んでいてはいけませんよね。いざ！）

　まるで戦場に挑むような心境で人混みをかき分けて店内へ入る。じっくり見ている余裕がないため、なんとなく目に付いた本をとりあえず手に取って会計を済ませるとすぐに退店した。

「疲れました……」

　とても本屋に入った感想とは思えないものが口からこぼれた。なにか軽く食べて帰ろうかと考えて、人の多いところを避けてフードコートを目指す。

「あれ？」

　その途中、ベンチに腰掛けるウォルター・Bに遭遇した。

「ウォルターさん、奇遇ですねえ」
「ああ、倉前か」
「お買い物ですか？」
「そのつもりだったんだけどねえ」

　苦笑いを浮かべながらどこかの店の紙袋を力なく掲げる。どうやら七瀬と同じように人波に揉まれたようだ。

「よければお茶しませんか？　僕も結構疲れてしまって」
「そうさせてもらおうかな」

　２人でフードコートに移動してstarboxsでドーナツとコーヒーを注文した。席を確保して荷物を置くと、ようやく一息つけた。

「セールときいてニャレッジヴァンガードで本を買おうと思ったんですが、まさかこんなに人がいるとは思わなくて」
「僕もだよ。セールだから人が集まるとは思ってたけどこれほどとはねえ」

　ドーナツをつまみつつ、七瀬は今日購入した本を改めて確認する。店内では中身を精査する余裕がなかったので表紙買いしたものや、ななめ読みで判断した本ばかりだ。
　寝ている猫だけを収めた写真集に、サンマさんっぽいキャラの絵本。何年か前に有名な賞を取った小説に、官能小説らしきタイトルの小説。あと最近アニメになった漫画の１０巻のみ。

「ふむん、自分で言うのもなんですがバラエティ豊かですね」
「この漫画を追いかけているのかい？」
「いえ、この漫画に至っては１巻も持っとらんです」

　それだけ七瀬が居た時の店内が混雑していたんだな、とウォルターは察した。

「ウォルターさんはこの中で気になる本あります？」
「そうだねえ」
「官能小説っぽいタイトルでも、読んでみると本格ミステリだったりするのでわかりませんよ？」
「ほう」

　２人は話すうちに楽しくなってきて、疲れも忘れてしばらく語り合った。