寝子島シーサイドアウトレット　スプリングセール｜リアクション

寝子島シーサイドアウトレット　スプリングセール

◆２人きりの時間

　稲積柚春とウォルター・Bは寝子島シーサイドアウトレットにやってきた。

（セールと言っても、そんなに値下げしてないだろうな）

　これは過去の経験から来る思考だった。
　アロマオイルは期間間近や商品入れ替えの時でも、あまり安くならない。同じことがバスボムの材料でも言える。もちろん安くなっていれば買うが、期待はそれほどしていない。

「ワットはセールとか気にせず買い物するタイプ？」
「そんなにはこだわらないかなあ」
「買ってみたいものがあるなら付き合うよ。戦力は１人でも多い方がいいだろうし」
「う～ん、そうだねえ……」

　買いたいものがあるから来たというより、柚春と一緒にイベントに訪れたような感覚かもしれない。これといってほしいものも浮かんでこない。

「じゃあ色々見て回ろうよ。なにか欲しいもの見つかるかもしれないし」
「そうしようか」

　そう言って２人はアウトレット内へと入っていく。最初に立ち寄ったのはUNISHIRO。言わずと知れた、リーズナブルな衣料品店だ。

（ワットが好きそうな服を買ってみようかな）

　服ならばセール対象品が多いし、挑戦するなら安い時のほうが買いやすい。しかし人の多さがその思惑を妨害する。同じようなことを考える人が多いのだろう。服のデザインを悠長に眺めている余裕がない。

（ううん……のんびり見てられないか）

　とりあえずサイズだけは間違えないように気を付けて何着か購入し、足早に退店した。

「人混みがすごいねえ、稲積、大丈夫かい？」
「大丈夫、ありがとう」

　この様子だと他の店舗も似たようなものだろう。一か所をじっくり見るよりも、気になるものを見つけたらちょっと立ち寄るというスタンスに切り替えた。

（こういうショッピングデートも悪くないかも）

　ふと柚春の目に貴金属店が映った。憧れめいた目で店を眺め、彼の右手をぎゅっと握った。

（ペアリング、学校の外ではつけてくれるって約束してくれたけど……流石にここでは買えないかな）

　ここは寝子島高校の教師や生徒もよく来る。もし見られたらお互いに困ってしまう。だからこの手を離さなければいけない。ウォルターもなにか言おうとしてるようだったが、口ごもった。その後も色々な店舗を回ったが、予想通りどこも混雑していた。

「あっ、ねぇワット……セールってやっぱり混んでるね」
「そうだねえ」
「だからその、エレベーターもなかなか来ないし、エスカレーターも列が出来てるし、階段で移動してみない？」

　その提案に彼は頷いた。階段には誰もおらず、２人の足音だけが響いている。

（人気のないところなら手を繋いでいられるよね）

　そう思った矢先、ウォルターが先に手を繋いできた。

（え？）

　驚いて彼の顔を見ると、少し頬を赤く染めていた。もしかしたら貴金属店で柚春が手を握ってきたとき、彼にも思うところがあったのかもしれない。なんだか嬉しくなって柚春はウォルターに抱き着いた。

（学校ではこんなことできないから、そのぶんたくさんワットを感じたいな）

　彼は一瞬驚いたものの、そっと彼女を抱きしめた。

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