【卒業生を送る会】未来へ向かってバイバイバイ♪｜リアクション

【卒業生を送る会】未来へ向かってバイバイバイ♪

☆いつか見た夢のように

（いつか見た夢では珪さんを誘ってダンスしてたんですよね。あの時は卒業式の後でしたね）
　綾花がそんなことを思っていると。
「あの、綾辻さん！　もし……良ければオレと踊ってください！」
　本当に声をかけられてドキッとしました。
　見れば図書室で見かけたことのある男子で、確か同学年ではあったけれど名前の覚えも怪しいくらいの面識でした。
　勇気を振り絞ったのでしょう、緊張して拳を握りしめている様子が見えました。
「私……」
　救いを求めるように珪の方に視線を向ける綾花ですが、珪はこちらを向く気配はありません。
（ちゃんと自分で断らなくてはなりませんね）
「……ごめんなさい。約束があるので」
　申し訳なく思いつつも、綾花ははっきり断りました。
（珪さんとダンスの約束をしていますから）

　男子ががっくりと去った後、綾花は珪のほうに歩み寄りました。
「珪さ……珪先生、私と踊ってもらえますか？」
「……ああ、約束をしていたよね」　
　それは、夢の中のことではなかったのでしょうか。
　曲はワルツでした。
　珪は慣れた様子で、しっかりリードしてくれます。
（落ち着かなくっちゃ）　
　自分に言い聞かせて、綾花は踊ります。
　手をつないで距離が近くなるたびに幸せすぎて、笑顔が溢れそうになります。
「珪さんと踊れて幸せです」

　会場が少し暗くなりました。
　自然と距離が近くなり、心臓の鼓動が聞こえそうで、綾花は笑顔で声をかけました。
「早川先生」
「えっ？」
　最近はそう呼んでいないので珪は驚いたようです。
「ふふっ、そう言ってた頃が懐かしいです。それから珪先生になって……」
「ああ」
　珪は理解したようでした。
「最近は珪さんですよね。私はいつ綾花って呼んでもらえますか？」
　耳元に近づいて甘く囁くように、綾花はそう問いかけるのでした。
「そうだね」
　それだけ言って、珪は手に少し力を籠めるのでした。