どこにも存在しない君だけの１３月を｜リアクション

どこにも存在しない君だけの１３月を

　理緒と紗月はショーケースを前に目を輝かせる。
　紗月は白猫のねこっこドーナツを、理緒は黒猫のねこっこドーナツを、そして期間限定のペンギンドーナツもそれぞれ一つずつ注文した。
　さらに互いにカフェオレを頼み、二人は奥のイートインコーナーに移動する。
「ねこっこドーナツ……！　んーーっ！　美味しい！」
「ペンギンドーナツも美味しいね。ホッとする……」
　理緒と紗月は並んで座り、彩り豊かなドーナツを前にそんな大絶賛をする。
　カフェオレで一息入れながら、二人はそっと肩を寄せ合った。
　触れた腕から伝わる体温。その温もりを常に感じていたかった。

「今日は気持ちいいお天気ね」
「そうね。暖かくて、紗月がいて、申し分ないわ」
　理緒は隣を歩く紗月の手を取り、微笑んだ。
　紗月もはにかみ、理緒の手を握り返す。
　そして、心なしかいつもより高く見える。目が痛くなるほど澄んだ１３月の空。
　好きな人と過ごす時間はそれだけで楽しい。
　店から出たその後は、二人でのんびりと時間をかけて島の中を巡る。
　午前中は木天蓼市動物園、魚市場、マリンパラダイスまで回った。
　お昼を終えた後、まず２人が目指したのはシーサイドタウン駅。
　さらに寝子島高校、寝子ヶ浜海岸、エノコロ岬、イソラ・ガレッジャンテ、星ヶ丘マリーナの順で巡っていく流れだ。
　スタンプを押しつつ、二人は周辺で行われるいろんなイベントを見て楽しんでいく。
　最後のスタンプを押した頃には、もう夜になっていた。
　お祭り会場に到着する頃には、既にスカイランタン祭りが始まっていた。
　目の前に飛び込んでくる光が、理緒と紗月の視界を幻想的に染め上げる。
「わ、綺麗だね……！」
「ほんとだ。すごく綺麗だね」
　途端、理緒と紗月は思い思いに歓声を上げる。
　その奇跡のような光景は星呼祭で見た――空に放たれたランタンを思い起こす。
　美しい夜空に映える、色鮮やかなランタンの数々。
　淡く光の灯ったそれが、祭りの雰囲気を一層際立たせていた。
　理緒と紗月も願いを込めたランタンを空へと放った。
　二人の願いは……言わずもがな。
　ランタンは徐々に空高く昇っていく。
　その景色はどこまでも優しく、温かな色彩として紗月の心を震わせた。
（今こうして理緒ちゃんと一緒にいる）
　色とりどりのランタンは暖かな季節を思わせる。
　まるで、１３月限定の春を少し先取りしたようで。
（理緒ちゃんとただ一緒にいるだけで……）
　紗月の胸の中に温かいものが溢れてくる。
「……これからも、ずっと紗月と一緒にいられますように」
「私も、理緒ちゃんと一緒に……いられる勇気が、消えませんように」
　穏やかで優しいランタンの明かりに包まれて、理緒と紗月は互いの顔をいつまでもいつまでも眺めていた。
　時は止まることもなく、常に未来に向かって歩いている。
　それでも、この瞬間が永遠に続けばいいと二人は願っていた。
　――だから、だろうか。
　何の前触れもなく、それは起こった。
「好き」
「……好き」
　この時期に流行っている、１３月の不思議な病。
　それは『好き』しか言えなくなる流行り病。
　理緒と紗月はともにそれに罹り、改めて二人は互いのことを想い合った。
（あたしと紗月が永遠に結ばれますように）
（これからも理緒ちゃんのことを愛し続けます）
　星呼祭の時のように、二人で一緒にいれば想いは共鳴する。
　しっかりと互いに握りしめられた手が、じんと温かく。
　心が嬉しさと幸せでいっぱいだった。
　いつだって特別な時間をくれる大切な人が、今も隣に居てくれているから。

　どうか、この幸せがずっとずっと続きますように――。

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