どこにも存在しない君だけの１３月を｜リアクション

どこにも存在しない君だけの１３月を

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「１３月といえば、何色の日だったかな？」
　稲積柚春はスマホで記念日一覧を眺めていた。
「僕とワットにぴったりな日があったよね！　一緒に過ごしてくれるかなぁ」
　ウォルター・Bと過ごす光景を思い浮かべて、柚春は口元を綻ばせた。
「３月のホワイトデーは告白の返事。４月のオレンジデーには恋人となった2人が想いを確認し合って、恋人になれなかった人はブラックデーとして過ごす」
　柚春はこれから訪れる記念日に想いを馳せる。
「それから５月は恋人がいない人はイエローデー、いる人はローズデー。７月のシルバーに８月のグリーン……毎月１４日には、恋愛に纏わるイベントがあるんだよね」
　そう思ったら、何か熱いものが柚春の胸の中を駆け抜けていった。
「１３月にも相応しいイベントがあるはずだけど、ブルーだと憂鬱っぽいしレッドとか？　レインボーやマーブルで複数の色もいいかも」
　柚春がそう思って検索していると、１３月のある記念日が目に入る。
「レインボーデー……！」
　その言葉に添えたのは心からの喜びであった。

「ワット！　今日は何の日か知ってる？」
　１３月１４日当日。人気のない場所で、柚春はちらりと隣を見上げて、ウォルターの様子を伺う。
「確か、レインボーデーだったよねぇ」
「うん。バレンタインとホワイトデーの間、１３月１４日は、恋人未満の特別な人が、ホワイトデーまで不安にならないように愛情いっぱいに包んであげる日だよ」
　柚春の眸は期待に溢れ、この日が来るのを心待ちにしていたことが見て取れた。
「つまり、僕がワットの愛情に包まれる日……だよね？」
　柚春は思い出す。
　バレンタインプレゼントを差し出した後、交わしたやり取りとウォルターのあの表情を。
「もちろんバレンタインで足りなかったなら、僕がワットを包んであげるのでもいいよ。何度でも大好きって言って、抱きしめてあげる」
　ウォルターの愛情にいっぱい包まれるのも、彼を目一杯の愛情で包んであげるのも、どちらも魅力的だから。
「どれくらい愛情を示せば、ワットがホワイトデーに勇気をもってくれるかな」
　ウォルターに告白して、彼と互いに同じ気持ちであることを確かめあった出来事が脳裏によぎる。
「……なんてね。きっとワットの答えは変わらないよね」
　柚春が抱いていた想いを全て聞いたウォルターは、あの時に答えられる想いの答えを伝えた。
「でも、僕の気持ちも変わらないんだよ？　ワットがだいすきで、いつでも飛び越えちゃいたいと思ってる」
「愛情いっぱいに包んであげる日か」
　ウォルターはふっと優しく笑った。
「……僕がワットを包んであげるのでもいいよ。秘密が増えちゃうね？」
「答えに困るなぁ」
　好きだからこそ、大切にしたいからこそ変えないといったこの関係。
　今はまだ、返せる言葉も少ない。
　それでも柚春が傍にいてくれることが幸せで、今この時を過ごせることに感謝を。
「でも、悩んでるうちに今日が終わってしまうのも……ヤだなって。だってワットは気まぐれだから」
「んー、まあ。否定はできないねぇ」
「だから、今日は僕がワットを包んであげる。何度、大好きって言っても全然たりないよ」
　柚春が包み込むように抱きしめていると、どこからか春を待ちこがれるような香りが漂ってきた。
「早く、来年の誕生日が来ればいいのにな」
「その時が来たら、その時かぁ」
「なにが？」
「ん～？　ホワイトデーを楽しみにしていてねぇ、って」
　その時が来たら……きっと柚春への特別な想いを抑えられなくなるかもしれない。
　いつか、全力の好きをあげる。暖かい陽の光のように一緒に包み込めたらいい。
　春の香りだけが、ウォルターの心境の変化を伝えているようだった。

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