どこにも存在しない君だけの１３月を｜リアクション

どこにも存在しない君だけの１３月を

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　最愛の恋人と同棲をして、同じ誌面を飾るグラビアアイドルとして働き、ハロウィンイベントで恋人同士であることを公表し、それに伴う大きな環境の変化があってから数か月。
「１３月、ねえ……」
　初瀬川理緒の朝は思いがけない出来事から始まった。
　目を覚まし、ベッドサイドに置いていたスマホで時計を見ると――日付表示が妙だった。何故か、１３月になっていたのだ。
（……これって春休みが一か月延びるってこと？）
　理緒の現在の気分を端的に表現するとこうなる。
　この現象が何故、起きたのかは分からないがともかく、この１３月を存分に楽しむことにした。
　スマホを操作し、SNSを適当に見ていたら、１３月だけの特別なお祭りや行事、期間限定メニューやら限定商品とかが目白押しだった。
「……おはよう理緒ちゃん」
　そのうちに、傍らで寝ていた佐和崎紗月が起きてきた。
「おはよう紗月。ようこそ、１３月の世界へ」
「……いきなり何のことかわからないよ、理緒ちゃん？」
「今月は１３月だよ」
　きょとんとする紗月に、理緒はスマホの時計を見せて説明する。
「これって神魂の仕業なのかな……？」
　理緒から事情を聴き、紗月は一応、今回、発生した事態を把握する。
「まあ、細かいことは置いといてさ。今日は思い切り遊ぼうよ」
「うん、理緒ちゃん。せっかくの１３月だもんね」
　正直、今が１３月というのは実感がない。でも、何だか面白そうだ。
　理緒と紗月は軽い朝食を取りながら、１３月をどう過ごすのかあれこれ話し始める。
「１３月だけの特別なお祭りや行事ね」
「１３月ってどんなことがあるのかSNSで調べてみたけど、確かにいろんなイベントがあるよね」
　理緒の言葉に、はにかむようにして紗月は応じた。
「今夜から一週間、スカイランタン祭りが
あるみたいね」
「１３月の星呼祭だね。どこでやってるの？」
　カウントダウンを祝う『星呼祭』と似た行事がある。
　紗月が顔を寄せて、理緒のスマホを覗き込む。
「えーっと、場所は星呼祭の時と同じ場所ね。星ヶ丘だって」
　１３月を楽しむための方針がほぼ決まったところで食事を終えて片付ける。洗顔や歯磨きなどの身支度を終え、着替えた二人は部屋を出た。

　町に出ると早速、通りで聞き覚えのない音楽が流れている。１３月だけの音楽。それを聴きながら適当に散策していく。
　すると寝子島駅で、寝子島の主だった１３カ所の名所を巡るスタンプラリーが行われていた。
「すごいね、理緒ちゃん」
「だね。せっかくだし、やってみようよ」
「うん」
　理緒の提案に、紗月は楽しげな声を上げた。　　
「寝子島駅からスタートして、次は寝子島神社ね」
「その次は寝子温泉だよ」
　寝子島内の１３カ所を巡るスタンプラリー。
　理緒と紗月は寝子島の名所を時間をかけて、のんびりと歩いていく。
「寝子島映画村に着いたわよ」
　理緒は周囲を見回した。
　他にスタンプラリーをしている人がいれば、その人の行動がヒントになりもするが、この場に今は二人きり。
「スタンプ、発見。押すね」
「紗月、お願いね」
「うん。桜のスタンプなんだね……」
　スタンプを押した後、ふと空を見上げて、紗月は呟いた。
　季節はもうそろそろ春の兆しを見せていて、日差しも暖かい。
「紗月、こっちこっち。面白そうなイベントが行われているよ」
「理緒ちゃん！」
　理緒が手を振って紗月に呼びかける。
　スタンプラリーしながら、途中のイベントを見物したり、冷やかしたりしつつ、二人でのんびりと楽しんだ。
「ドーナツ屋さん？」
　お昼過ぎの小腹が空いた頃合い。紗月が見る先に、理緒もまた目を向けた。
「ねえ紗月。行ってみない」
「うん、理緒ちゃん」
　ほら、と手を伸ばした理緒に、紗月は微笑みながら頷き、その手を取った。

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