どこにも存在しない君だけの１３月を｜リアクション

どこにも存在しない君だけの１３月を

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「迷い込んだのか……？」
　寝子島で起きた異変を目の当たりにして、桜井ラッセルはぽつりと呟いた。
「まあ、危険がなきゃ、１３月なんてしらねーし楽しんでくか」
　どんな月なのかはまだ把握できていないが、今は思う存分、楽しむ事が最優先だ。
　ラッセルは１３月に関するネット記事をもとに、ふらりと寝子島を散策する。
　空を見上げたラッセルが思うのは風の精晴月のこと。
　ふと、節分祭の時の記憶が蘇る。
　二人の想いが通じあったあの日を。
　その時、空からふわりとレモングラスの香りが漂った。
「あれ、ラッセルだ。何してるの？」
　程なくして、晴月はひょこりと現れる。
「よ！　晴月！　元気してっか」
「うん。元気だよ！」
　晴月に会えた安堵感から、ラッセルはつい微笑んでしまった。
　でも、不安が一つ。
（大丈夫だよな、俺の知ってる晴月だよな……？）
　もしかして……と悩み、少しだけ緊張してしまう。
　１３月という未知の現象。
　今、目の前にいる晴月はラッセルの知っている彼女ではないのかもしれない。
　そこはかとない不安が込み上げてきたけど、どうやらこの現象に気づいていないだけのようだった。
　確かに今こうして隣にいるのは、間違いなくラッセルの知っている晴月だ。
　その事実は途方もなく、ラッセルの心を温める。
「１２月とか１３月とか正月が来る前のお祭りみてーで特別なナニカがみれるかも。探しにいこうぜ！」
「うん！」
　ラッセルの誘いに、晴月はぱあっと顔を華やせた。

　ラッセル達がデートを兼ねて楽しんでいると、行く先々で家族連れや仲睦まじげなカップルを目にした。
「寝子島のみんなはきづかねーのかな。それともいつものことで慣れっこだから俺みたいに楽しんでるか」
　ならば、おもいきり楽しもうとした時、晴月が途中にあった掲示板を見て、「あっ」と声を上げた。
「ラッセル、フシギなお祭り！」
　晴月が指差した先には今夜から一週間、開催されるスカイランタン祭りのポスターが貼られていた。

　スカイランタン祭りを聞きつけたラッセル達は、お祭り会場に訪れていた。
「ラッセル、こっち！　何か食べようよー！」
「おう！」
　所狭しと並ぶ屋台を巡りながら食べ歩いていく。
「わあっ！」
　やがて、晴月は空を見上げて感嘆の声を上げた。
　浮かんだランタンは、果たして幾つか。
　徐々にその明るさを増していく夜天の中で、また一つ、ランタンが空に放たれた。
（願いか）
　ラッセルは視線を上げる。
　晴月を見て、『ずっと一緒に幸せな未来を歩めますように』とランタンに書くと、願いを込めたランタンを空へと放った。
　そのランタンを追いかけて、ラッセルは鳥に変身して空へと飛んでいく。
（どこまでいけるだろう）
　ラッセルはふと思う。
（太陽が出てないからイカロスの翼みてーに溶けて落ちはしないけど）
　それに晴月が飛べる範囲は寝子島内。島から離れると力を失ってしまう。
（鳥の身でも限界があるからな……。でも神秘的だから、見守るだけ見とこうか）
　視線の先で晴月と果てしないランタンが夜空を漂っていた。

（綺麗だな……）
　思わず感激を唇に乗せてしまいそうなほどに。
　晴月と無数のランタンが宙を舞う光景は美しかった。
（ああ、なんだろ。今すぐキャンバスに向き合いたいな）
　晴月の姿は、ランタンを背景にしているからか神々しいほどだ。
（今このキラめく晴月と光景と、空から見下ろす地上の星を感動のままに書き留めたい）
　心が、もっと……晴月と繋がっていたいと訴えていたから。
『今日もありがとな』　
「私、ラッセルと一緒にいられて幸せだよ」
　地上の星の祝福を受けた、愛する人の姿は、ラッセルの心の中にだけ一際強く焼き付いた。

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