【進路・合格発表】寝子島に、サクラ咲くころ｜リアクション

【進路・合格発表】寝子島に、サクラ咲くころ

　◆木天蓼大学、朝１０時

　木天蓼市にある木天蓼大学本校、通称本土キャンパス。
　朝１０時直前。合格発表が行われる校門前には、受験した学生や報道のカメラ、さらには合格者を胴上げしようと待ち構える屈強なラグビー部の面々が集まり、緊張とざわめきはピークに達しようとしていた。
「けっこう生で見に来てるやつも多いんだな」
「オレらもだけどな」
　芸術学部を受験した桜井ラッセルは、友人の海道千里と一緒に見に来ていた。
　本土の高校に通う友人である千里が受験したのは医学部だ。受験した学部こそ違えど、千と同じ大学を受けるということはラッセルにとって大きな励みだった。小中が一緒だった友人と、また大学で一緒になれるかもしれない。そうなりたい。
（試験勉強けっこう頑張ったと思うんだよ。先輩に教えてもらったり必勝ノート借りた甲斐あって、模擬テストの判定ではいけそうだった。絶対に受かる。千とマタ大通うんだ）
　発表の時間が近づくにつれ、緊張して来た、と千里は零す。
　ラッセルは千里とくっつくようにして、多分今しか伝えられないことを口にした。
「なあ千。俺は浪人しても遅れても、がんばって千と同じ学校に通うって決めてるから」
「不吉なこと言うなよ」
「一応だって。合格してるって信じてっけど、確認するまでは安心できねーからさ」

　文学部を受験した恵御納夏朝と、芸術学部の写真学科を受験した恵御納夏夜も、合格者の番号が掲示されるのを固唾を飲んで待っている。
「受験後の自己採点は大丈夫だった。だから、きっと大丈夫……だけど……」
　小声でつぶやく夏朝に、夏夜もうなずく。
　もし大丈夫じゃなかったらどうしよう。
　この場にいるほとんどの人と同じ緊張を、夏朝と夏夜も感じている。
（あの日は色々あったから……少し、不安だ）
　ふだんからクールな夏夜の表情は傍目には緊張しているように見えなかったが、夏朝にだけはわかった。
　夏朝は不安を振り払うように夏夜の手を握る。
「きっと、大丈夫だよ。良い結果だよ……にゃー！」
　大好きな猫の鳴きまねをしてみせると、ようやく夏夜の頬にかすかな笑みが戻って来た。
　夏夜は夏朝の手を握り返して言った。
「……そうだね、大丈夫。一緒に見よう」

　佐藤英二も、野々ののこと一緒に見に来ている。
（自分の合否もドキドキするけど野々さんの結果のほうがもっと気になるなあ）
　自分はなんとか受かっていそうな気がする。
　しかし、ののこはどうだろうか？
（受験勉強始めたのが直前だったみたいだし……ああ、心配だ）
「どうしたの、英二くん。顔ガチガチだよ。緊張してる？」
　ののこは、いつもどおりの能天気な顔できょとんと首をかしげる。
「あっ、うん、まあ」
　ののこの結果が気になりすぎて、とは言えない英二は、ぎこちなく笑むばかりだ。

（やっぱりネットより自分の目で見たいよね！）
　文学部を受験した響タルトは、知り合いの顔をいくつか見つけつつも、お互い暗黙の了解で発表までは声をかけずにいた。それにしても気になるのは屈強なラグビー部員さんたちだ。
（すごい筋肉！　合格したら胴上げしてもらえるんだ……ちょっと楽しみ）
　と、校舎の方から、背広姿の職員さんが数人、大きな紙を持って現れた。
（あそこに、僕の運命が書かれてるんだ……！）
　タルトはごくりと生唾を飲み込む。
　職員たちは集まった学生たちを下がらせると、手分けして掲示板に番号を張り出す。
　息を呑むような、わ、という響きがあちこちから上がった。
（とうとう発表された！）
　タルトは自分の番号を指差しで探す。
「僕の番号あるかなあ？　――あ！」

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