【期末テスト】赤点？留年？？春雷、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？留年？？春雷、四日間の死線＜物語編＞

　嘉渡洲稀跡は自分の教室に入り、息を吐いた。服装自由での登校、もこもこのたぬきの着ぐるみを着て来たためか、歩くのは遅いし、階段を上るのも大変だった。
「自由服登校も楽じゃないぽん」
　カバンを自席の机に置いてから、椅子に座ろうとするが。
「うう」
　椅子の背もたれを掴んで引こうとしても上手くつかめない。
「大丈夫？」
　近くの席の女子生徒に声をかけられた。代わりに椅子をずらしてもらい、どうにか座ることができたのだが。
「はあ。焦ったたぬ」
「ねえ、ねえ、こういうタイプの着ぐるみ、おすすめぴょん！」
　先ほどのクラスメートは、いわゆるウサギの着ぐるみ姿で稀跡のたぬき着ぐるみと違ってもこもこしていないタイプだ。そこまでぴっちりしていないが、全身タイツよりである。
「……でも、その耳はダメだと思うぽん」
　教室内での帽子の着用は禁止だ。着ぐるみは一枚の服だが、彼女のそれは独立してるように見える。
「分かってないぴょんねえ。ほら！」
　紐型のフードにうさぎ耳がついている仕様らしい。
「ね？」
　稀跡は妙に感心してしまった。画期的である。
　心の中で思う。
（次はこういう着ぐるみに乗り換えようかしら）
　そちらのほうが動きやすい気がするのだ。
（でも待って。制服があるのにどうして今日は自由登校なの？）
　本当によく分からない。考えようとするとぼんやりとするのだ。
　やがて、教員が入って来て試験が開始する。しかし、
「！？」
　稀跡は驚愕した。
「しゃ、シャーペンが持ちづらいぽん……！」
「嘉渡洲さん」
そばの席の男子生徒がセロハンテープを稀跡の机に置いた。
「使いな！」
　爽やかな笑顔である。甲冑姿の彼の手にはシャーペンが握られているのだが、当然握れないのでテープでぐるぐる巻きになっているのだ。
（これはどうなのかしら……あ、いやでも）
　疑問がかき消され、思う。
「ありがとたぬ。良いアイディアぽん」
　これほど画期的な思いつきはないだろう。これで４日間乗り切れる。そう思ったのだが。

　４日後。
　最後のテスト中に我に返ってしまった。
「まずい……」
　心臓が跳ね上がっているのが自分でも分かる。赤面、汗だらだら。
（何をどう考えたらこの格好で登下校していたのかしら）
　全く覚えていないし、シャーペンぐるぐる巻の手に狂気を感じる。
（ちょっと頭おかしかった！？）
　テスト終了後、何事もなかったように更衣室へ行き、ジャージに着替えた。
　教室に戻ってカバンを持ち、ふうっと息を吐く。
　とりあえず、忘れることにした。