小さな幸せのアイスクリーム屋さん｜リアクション

小さな幸せのアイスクリーム屋さん

　キャットストリートにて。

「碧南さん。こんなところで会うなんて奇遇だな」
「洋二さん！」
　鷹取洋二のきらりと輝く笑顔に、羽生碧南の鼓動が跳ねた。
「買い物か」
　洋二の目が、碧南が持つ荷物に向く。
　その声は、普段とまるで同じもの。
　しかし答える碧南の声音は、いつもよりちょっとだけ高い。
「はい、大学で必要なものを、今のうちにと思って」
「そうか。必要なものはもうそろったのかい？」
　洋二の言葉に「はい」と返す。
「この後の予定は？」
「特には……」
　と、洋二は「ふむ」とうなずいて、碧南が持つ荷物を手に取った。
「ひとつ持とう。君にとって重いものではないとは思うが、僕が持ちたいんだ」
　碧南が気を遣うと思ったのだろう。
　先んじて言って微笑む洋二に、碧南は、まさかと思う。
「あの、それは、このあと一緒にいてもいいということ……でしょうか？」
　嬉しさと期待と不安が入り交じり、うかがうように聞いてしまった。
　すると洋二は。
「君さえよければ」
「もっ、もちろんです。お願いしますっ」
　碧南はぺこりと頭を下げた。

　心臓は、いつのまにかバクバク壊れそうなほどに鳴っている。
（両想いになったというのに、なかなかこの感覚になれないというか……いや、これが恋するってことなのかなー、乙女ゲーじゃ百戦百勝だけど、リアルだとなんというか……でも、この感じが“人を好きになる”ことなんだよね……）
　などと思いながら、洋二の隣を歩いていると、彼は突然足を止めた。
「碧南さん、アイスクリームのキッチンカーが来ているようだ。見てみるかい？」
　洋二が指さす方を見れば、そこにはパステルカラーの車があった。

　近づくと、白熊と白ギツネとペンギンが、にこにこ話しかけてきた。
「いらっしゃい。うちのアイスはどれでもおいしいよ～」
「えっ、じゃあ、シャーベットオレンジください」
「僕はコットンバニラを」
「はいはーい」
　のんびり返した白熊たちは、すぐにアイスを渡してくれる。
「素敵な時間を過ごしてね～」
　そんな言葉で送り出され、二人は近くのベンチに腰を下ろした。

「かわいい店員さんでしたね」
「どこから来たんだろうな」
「南極と北極から来て、寝子島で出会ったのかな」
　碧南はくすくすと笑った。
　かわいい動物たちのおかげで、ちょっと緊張がおさまったようだ。
　ぱくりと食べたシャーベットは、爽やかな味で、シャリシャリ触感がとてもいい。
「バニラ、どうですか？」
「濃厚でとても美味しいな。シャーベットはどうだい？」
「こっちも美味しいです。寒いけど」
　苦笑しつつ言えば、洋二は少しだけ、碧南に身体を寄せた。
　碧南のほうも、ドキドキしながら洋二に近づく。
　二の腕がぴったり触れ合う距離。でも分け合う体温以上に身体は熱い。
「洋二さん、シャーベットも食べてみますか？」
「ではバニラと交換しようか」
　洋二がスプーンでアイスをすくったので、碧南も同じようにシャーベットをすくう。
「どうしようか」と思いつつ「こういうことよね」と考えて、えいっと口を開けたら、そこにアイスをのせたスプーンが。
「うわっ、濃厚っ！　洋二さん、こちらをどうぞ」
「ありがとう。いただくよ」
　碧南が差し出したシャーベットを、洋二はぱくり。
「うん、とても爽やかだ」

　寒い中での冷たいアイス。それでも心は温かく、身体は軽やかぽっかぽか。
「このあとは、どうしましょうか。洋二さん」
　さっきまでの緊張を忘れて、碧南は元気に問いかけた。

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