遊びに行こう、眠れない夜に誘われて｜リアクション

遊びに行こう、眠れない夜に誘われて

ふっと目が覚めて、仙藤紫は時計を見た。まだまだ夜中だ。早朝ですらない。
「……」　
　ごろりと寝返りを打つ。
　一瞬で目が冴えてしまい、すぐには眠れそうにない。
　現在大学は春休みに入ったばかり、焦って眠る必要はないが、昼夜逆転するのはどう考えても体に悪いだろう。
　そんなことを考えていると自分を呼ぶ声が聞こえる。
「誰？」
「眠れないんだろう？」
　

　明日は学校なのにベッドに入ってから目が冴えた。開き直ってソシャゲでもやろうかとスマホを手にしたところで、仙藤蒼は声をかけられた。夜に遊びに行こうと誘われて、言われるまま連れてこられたのは、遊園地の前だった。
「おねえちゃん？」
　ばったりというか、気づいたら隣にいた。紫も驚いているようだ。
「え、なんで」
「この子に誘われて。眠れないし、つい付いてきたんだけど」
　突発的に遊びに行こうと思うようなタイプではない姉にしては積極的だ。
「へぇ、おねえさん達姉妹なんだ。じゃあ、一緒にたくさん遊べば良いよ」
　遊園地への扉が開いた。足を踏み入れる。
「うわ〜。ちょっと不気味だけど、ソワソワするね」
　蒼が言う。
　昼は多くの人々で賑わっているだろうに、誰もが寝静まる深夜では何もかもが夜闇に沈んでいた。月明かりが降り注ぎ、霞みがかったようにぼんやりとしている。
　しんとした静かな遊園地に、昼間の面影はない。
「ん？　これ何？」
　蒼が何やら円形の建造物に歩み寄る。
「ちょっと待って」
　紫が追いかけると、それはぱっとライトが点灯した。
「うわぁ〜」
「う、動いた」
　メリーゴーランドだった。金色の光が溢れ、オルゴールの音と共に回転し、馬達が上下に動く。
「おねえちゃん、せっかくだから乗ろうよ」
「い、良いのかしら」
「早く」
　蒼に手を引かれ、紫もメリーゴーランドの入口へ。
「止まらないから、僕が乗せて上げようか。ごゆっくり」
　少年が指で指揮すると、蒼と紫の体が浮び上がり、大きな二人乗りの馬に着地した。
「よーし、スピードアーップ」
「多分、しないでしょう」
「気分だよ、気分。おねえちゃんとひっついてると小さい頃思い出すね」
「……ええ」
　小さい頃は世界が狭かった。だからこそ、メリーゴーランドに乗っただけでワクワクできた。
　周りのアトラクションは沈黙したまま、蒼と紫の周りだけが輝いていた。
　それから、夜の静かな遊園地を一通り周った。静かなのに、自分達が乗るアトラクションは息を吹き返したように動くのだ。ジェットコースター、水上船、観覧車、暗いのに、明るい。不思議な空間だ。
　
　最後にやってきたのは遊園地内にある温水プールだ。
　用意されていた水着は非常に見慣れたものであり、それをつけて温かめのプールへと入る。プール底のライトアップが綺麗で、やはり月明かりだけのプールとのミスマッチが良い。
「なんだか、不思議ね」
「ずっと不思議でしょ？　あーなんか楽しい〜。今はおねえちゃんと２人しかいないんだよね」
　プールサイドに置かれていた浮輪をラッコのように抱き締める。
「そうね」
　蒼は仰向けに浮かんで天井の窓を見上げた。真ん丸な月が出ているが、今日は満月ではなかったはず。
（夜の遊び場、か）
　と、紫が口元を押さえた。
「ふあ……」
「眠いの？」
「ええ、少し。水が温かいし、こうやって揺れてるとなんだかね」
「うん、分かる。はぁ〜。明日学校だけど大丈夫、かな」
　急激な眠気は程よい疲れからだろうか。
　水に揺られながら、うつらうつら。明日は、すっきり起きられるだろうか？
「！」
　と、ゆらゆら浮いていたはずが、急に水の流れが速くなった。
「あれ、流れるプール？」
　いつの間にかドーナツ状のプールに入り込んでしまっていた。
「きゃつ」
　紫が足を滑らせたようだったので、
「おねえちゃんっ」
　浮輪に二人で捕まる。
「流れ、はやっ。急流だね」
「ええ、でも」
「あはっ、なんか楽しいよね！」
　深夜テンションという奴なのかもしれない。今は二人でとにかくはしゃぎたい。
「おねえちゃん」
「ん？」
「今度は昼に、二人で遊びに行こう」
「そうね」

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あとがき

担当マスター：高城ヒト
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眠れない夜の先に、どんな遊び場が待っていましたか？
普段は行けないところに行くのは楽しいですし、それが夜だと特別な感じがして良いですよね。
楽しんで頂けたでしょうか？

ご参加ありがとうございました！

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