遊びに行こう、眠れない夜に誘われて｜リアクション

遊びに行こう、眠れない夜に誘われて

　稲積柚春は眠れなくてゴロゴロしていたところ、白い少年に遊びに行かないか、と誘われた。
　戸惑いながらも彼について行ったところ、暗い街の中、ウォルター・Bに会った。
「ワット！？」
「あぁ、おにいさんとおねえさんは知り合い？　同じ時間に眠れないようだったから誘ったんだ」
　どうやら偶然のようだが、それはともかく二人でデート、ということになりそうだ。
　少年について暫く歩くと、彼の姿は闇に溶けるように、消えてしまい、気づけば水族館の前に立っていた。
「勝手に入って良いってことなのかもねぇ」
　昼間よりも暗い水族館内は、窓から射し込む月明かりのみに照らされ、ぼんやりとした薄闇が広がっていた。
「わ……」
水槽のライトアップはあるだろうと予想していたが、
「光る魚かぁ。どういう仕掛けなんだろうねぇ」
　真っ暗な水槽の中で泳ぐのは光り輝く魚達だ。
　残像が残るくらい激しい動きをしている。
「凄い」
　光るイルカやペンギンなどを見つつ、水族館の奥まで来ると、
「ここは」
　景色が変わり、教会の入口に立っていた。屋根にあるベルは薄闇に佇んでいる。
「せっかくだから入ってみようか」
「え、あ、うん。なんか緊張する」
　柚春は思わず、ウォルターの腕を掴んだ。
　正面にある両開きの扉を開けると、月明かりにぼんやりと浮かび上がるチャペルだった。もちろん、客席には誰もいないし、神父さんもいない。
　ふわふわの絨毯を踏みしめて中へ入ると、天井のステンドグラスから光が降り注いでいることに気づいた。
「綺麗」
　まるで秘密の結婚式を祝福しているかのよう。
「綺麗だねぇ。不思議な場所だ」
　ウォルターのきれいな横顔に、ドキドキする。
「ワット、そこまで歩かない？」
　彼はキョトンとした後、笑う。
「せっかくだしね」
　教会の奥、台が置かれたその前で向かい合う。
「なんだか、寂しいけど、こういうのも良いねぇ。秘密の式みたいで」
　月明かりが射し込む結婚式など、聞いたことがない。今この瞬間は、この世界に２人だけのように錯覚する。本当ならこれから生きていく社会に愛を誓う場所なのに、誰にも内緒で自分達だけしか知らないのは特別感がありつつも、寂しくもある。
「前にワットはさ、僕にwill you marry me？って言ってくれたよね。もう１度言わせたら勝ち、なんて冗談っぽく
最初は勝ち負けなんてわからなかったけど、答えがわかっているときの言い方だったんだね。じゃあ僕からワットに伝えるのはこっち。Would you marry me?」
　ウォルターは目を瞬かせた。
「待ってるだけじゃ不安だから、何か約束をしたいんだ。僕に返事をちょうだい？」
　それから微笑む。
「だめだよ、稲積」
「え」
　ウォルターは客席につけられていた飾りつけのブーケからピンク色の花をすっと抜き取る。
「もう一度僕に言わせてごらんって言ったよね？」
花を差し出し、くすっと笑うウォルター。差し出された花を柚春はぎゅっと握り、少しだけ頬を膨らませる。
「ワット、ずるい」
「ここは遊び場だからねぇ。でも。稲積の気持ちは伝わってるから」
「……本当？」
「大事な教え子だしね」
「やっぱりずるい……」
　完全子供扱いで頭を撫でられる。しかし、妙に幸せな気分だ。

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