遊びに行こう、眠れない夜に誘われて｜リアクション

遊びに行こう、眠れない夜に誘われて

　綾辻綾花は何度目かの寝返りを打ってから、ゆっくりと目を開けた。
　受験勉強を終えて寝ようと思っても今日はなんだか寝付けない。
気晴らしに散歩しようと寮をでたら見慣れない男の子にばったりとあった。白い髪の小学生くらいの男の子だ。
「おねえさん、眠れないなら、遊びに行かないか？　きっと帰る頃には遊び疲れて眠くなるよ」
「え……」
「さ、行こう」
　つんっと服の裾を引っ張られた瞬間、気づけば植物園の前に立っていた。
「ここは」
「綾辻さん？」
「！」
　振り返ると、そこには早川珪が立っていた。驚いたような顔をしている。
「珪さん、なんで」
　そこまで言葉を発して、なんとなく気づく。
（きっと夢ですね、これ）
　寮を出てから不思議なことが連続で起こっている。きっと、眼の前の彼も夢の中の。
　と、珪にぽんぽんと頭を撫でられた。
「！？」
　予告もなく、不意打ちだったので顔が一気に赤くなった。
「あ、あの」
「あ、ああ。夢かと思ってつい確認を。ごめんね」
　そこで確信。
（本物の珪さん……っぽいです）
「お二人さん」
　声をかけてきた少年はにっこりと笑う。
「ライトアップしといたから、ゆっくり遊んで行ってよ」
　彼は植物園の中へ、闇に溶けるように消えていった。
「今日はどうしても眠れなくてね」
「私もです」
　二人で困ったように笑い、植物園の中へと足を踏み入れる。
「あ」
　照明は切られていた。しかし、ぼんやりとした小さなランタンの明かりがところどころに点在していて、園内をささやかに照らしている。地面に置かれていたり、電気の通っていない街灯にくくりつけてあったり。
「これ、持って行って良いみたいだ」
　入口のそばにあったランタン置き場から一つ借りることにして、中を探索してみることに。
「静か、ですね」
　フードコートや売店などはしまっているし、人の姿は一切ない。淡いランタンの明かりが景色を霞ませていた。
「きゃっ」
　何かに躓いたような気がして、思わず珪に抱きつく。
「大丈夫かい？　ちゃんと足元を気をつけてね」
　優しげな反面、小さな子供に諭すように言われた挙げ句、頭を撫でられた。
「珪さん、私、小さい子供じゃないんですよ？」
　嬉しい反面、将来を夢見る相手なので子供扱いは少し不服だ。頬を膨らませる。
「ごめんごめん、今日は綾辻さんが、中学生くらいに見えるから」
　このぼんやりとした明かりのせいだろうか。
　と、珪が何かに気づいたようで。
「綾辻さん、あれ」
「え？」
　花畑と書かれた矢印看板が指す方を見ると、薄暗い中、薄ピンク色に輝く一面の花が咲き誇っていた。
「き、綺麗」
「行ってみよう」
　手を引かれ、花畑へ。
　薄ピンク色の花びらが風にさらわれて舞い上がる。どこかで見たことがあるような光景だが、光る花など存在するのだろうか。
　綾花は珪に握られた手を、握り返す。
「幻想的ですね」
「なんの種類なんだろうな」
　なんとなく夢だと分かっているが、珪と繋いだこの手の感触は本物だと思う。
「ふぁ……」
　急な眠気に綾花は口元を押さえた。
「ちょっと歩いてみようか？」
　にっこりと笑う珪。
「はい」
　光る花びらが舞う中散歩をして、その途中から記憶が飛んで、そして、

「んん……」
　目を開けると、視界が揺れていた。
「大丈夫かい？　もう帰るところだから」
　どうやら珪に背負われている状態らしい。
　つまりは、おんぶ、だ。
「あれ、なんで」
「今日は楽しかったよ。またね」
「私も……です。また、珪さんと」
　もう少し味わっていたいのに、眠気には勝てなかった。

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