アソビの森で遊んじゃおう｜リアクション

アソビの森で遊んじゃおう

　一方で、ルールもわからないけれど『綺麗だ』という感情を持ってアソビの森を楽しんでいる者もいる。

「すみません、これ見せてもらってもいいですか？」

　万条幸次は花札コーナーに遊びに来ていた。
　と言っても彼は花札のルールも知らず、絵が綺麗なものが多いという感覚だけでこのブースを楽しんでいる。
　４枚１２種の札。それらを組み合わせて遊ぶのはわかるが、いまいちその組み合わせがよくわからない。

　花札は昔ながらの絵柄も多いが、昨今はアニメのキャラクターに合わせたものや、少しわかりやすい絵柄になっていたりと若者にも人気なものが多い。
　丁寧に花札の役を纏めた一覧表があったので、幸次はそれを手にとって見た。色々な役が並んでいてちんぷんかんぷんだったが、隣にやってきた男――鷺来瑞毅が説明してくれた。

「アンタ、花札は初めてか？」
「は、はい。えっと……？」
「ああ、気にするな。知り合いの販売員に説明係よろしくって言われてるんでね」

　そういった瑞毅は幸次に対し、何がわからないかを尋ねてみる。
　……と言っても幸次は花札を触ったことがないので、最初から全て、と答えるしか無いのだが。

　花札は手札から札を出していくゲーム、というのはなんとなく幸次も知っている。
　だが２枚重ねたり重ねなかったりするのは何故なのか、役はどんなものがあるのか、柄の意味は何なのか、というのはよくわかっていない。
　そこで瑞毅は実際のプレイング用の花札を取って、まずは柄について説明してくれた。

「この絵柄は１月から１２月を示しているんだ。１月は松に鶴とか、１０月は紅葉に鹿とかね」
「なるほどぉ……」
「シカトの語源なんかはこの紅葉に鹿が元となっているんだ。こうしてそっぽを向いている鹿が１０月、だからシカト」
「え、じゃあ他にもあったり？」
「ピンキリって言葉もそうだな。１２月の札が桐だからこれっきり、ってな」

　色々と教えてくれる瑞毅。彼は教育実習生という立場を使い、色々とわかりやすく説明してくれた。

　彼の説明が上手いからか、役にも興味を持った幸次は『月見で一杯』『花見で一杯』の役に目をつける。
　初心者には一番わかりやすく、揃えやすい役。月見でも花見でも、酒の場は変わらないのだというのがよくわかる。

「……ちょっと、やってみたいな……」

　そのうち湧いてきた小さな感情は、瑞毅の耳にも届く。
　今やらないなら、いつやるのか。それを告げるように、瑞毅は懇切丁寧に説明をして、幸次に花札を教えた。
　札を場に置く時のルール、集めた時のルールなど、ゆっくりと教えながら。

　……なお、ビギナーズラックというものは存在せず、幸次は見事撃沈してしまいましたとさ。