おいでませ人間さま、霊界弾丸ツアー｜リアクション

おいでませ人間さま、霊界弾丸ツアー

綾辻綾花は、早川珪とともに霊界ツアーに参加することになった。元々お出かけの約束をしていたのだが、待ち合わせ先で色々あり、ガイドのポン助に誘われたのだ。
「さぁさぁ、カップルさんご案内〜」
　綾花はどきりとした。特に説明はしていないのだが、そういう間柄に見えるのだろうか、と。
「少し楽しみだな。中々なさそうな機会だ」
「そうですね」
　男性の冒険心をくすぐるのだろうか。
　最初に案内されたのは「瑠璃紺逆さ屋」だった。
「ささ、ごゆっくり見て回って下さいませ〜。お二人の邪魔は致しませんので」
　どうやらカップルへの対応があるらしい。
宙に浮いている屋敷の中へ入ると、広い玄関が広がっていた。
「中は普通ですね」
「ああ、これから何か起こるのか」
　しかし、その時だった。
「きゃっ」
　綾花は思わず声を上げた。前触れもなく、重力が反転したのだ。足がふわっと持ち上がり、頭が床へ引っ張られる。
　めくれそうになるスカートを押さえ近くの柱に手をついてどうにか耐えるが、
「珪さん……どうしたら良いんでしょうか」
　胸がふわふわ浮いている感覚というか、上に上がってきて、恥ずかしい。
「綾辻さん、少しこっちに。ちょっとごめんね」
「へ？　あっ」
　珪は綾花の腰の辺りを両手で掴んで、バランスを崩さないよう床へそっと下ろした。小さな子供を上から下ろすかのように。
　ぽんと頭に手を置かれる。
「大丈夫かい？」
「は、はい」
「もがくと、変に重力が働くね。手を繋いで行こうか？」
　お互いぎゅっと握った手、逆さ屋敷を探索することに。
「不気味な雰囲気ですね」
「さすが霊界というか。ん？　あれは」
　正面に天井まであるかのような障子戸が現れた。
「な、なんでしょうか」
　思わず手に力を入れた時。
　障子の間という間から、ババっと音を立てて、無数の手が飛び出してきた。
「きゃあぁあっ」
　霊というより、急にドンと音をたてて驚かせる系の脅かし要素だ。
「さ、さすがに驚いた」
「け、珪さん」
　思わず後ろから抱きついてしまった。
「大丈夫、襲ってきたりは」
　珪の言葉が終わる前に、二人の頭上に穴が出来て、
「へ？」
　落とし穴のように上へ落ちていく。
　綾花の悲鳴と珪の声も響いて、気づけば。
「あ」
　落ちた先で、綾花は尻もちをついた珪に上から抱きついている形になっていた。
　重力が狂っているので、どうにも出来ないがしばらくこのままで落ち着くのをまとうということに。
（でもちょっと……こうしてるの良いな）
　シュチュエーションに感謝である。

　波乱続きの逆さ屋敷の次は、「浅縹温泉」にやってきた。さすかに男女別だったので、お互い露天風呂に入ることになった。
霧の立ち込める浴場、男湯と女湯の仕切り越しに、会話を交わした。
「聞こえますか？　今日、楽しかったです」
「聞こえてる。ああ、綾辻さんと冒険してるみたいで楽しかった」
　顔は見えないが、二人だけの世界だ。

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