いざ勝負！！！！｜リアクション

いざ勝負！！！！

　綾辻綾花は買い物袋を下げて店を出た。欲しかった食材に間違いはないかを確認していると、
「あれ、綾辻さん？」
　聞き慣れた声に顔を上げる。
「奇遇だね」
　早川珪が手を振りながら歩み寄ってきた。
「珪さんもお買い物ですか？」
「ああ、夕飯の材料をいくつか」
　似たような理由でこのスーパーに来ていたようだ。
　と、その時。
「わっ」
　巻き込むような風が吹き抜けた。すぐに、不思議な感覚に陥る。
「………」
「綾辻さん？」
「あの、珪さん」
　あの風に心変わりをされてしまったかのようだ。不思議な気分である。
「良かったら千切りとみじん切りで勝負しませんか？」
「！　僕も同じことを考えていたんだ」
　なんだかよく分からないが、勝負をするしかないようだ。
　場所は珪のアパートである。台所を使わせてもらうことに。
　用意をしたのはまな板2つと包丁を2つ。それぞれ、玉ねぎみじん切りとキャベツ千切りだ。
「一分づつです。……スタート！」
　まずは綾花はキャベツを分解し、形の揃っているものを重ねてギュッと押さえ、切り出した。猫の手で指を切らないように、しかし、スムーズに。
　サクサクサクと小気味のいい音がしている。
　そして、一分後。
「はぁ、腕が疲れた……」
　珪が苦笑気味に言う。
「ぜ、全力疾走した時みたいですね」
「ああ、そんな感じがするね」
　二人で笑い合う。
「でも、うん。綾辻さんの切り方、凄いなやりやすそうで」
「形が違っていたり、高さがあると切りづらいので、合わせるんです。ほら、こうやって」
　よく見ようと珪が隣に並んだ。少しどきりとする。
「やってみても良いかい？」
「は、はい」
　綾花が切っていた残りのキャベツに包丁と手を当てる、珪。
「あ、それだと危ないですよ。えっと、こうやって」
　珪の手に重ねて一緒に切ってあげると、すぐに覚えたらしく、
「おお、本当にやりやすいね。ありがとう」
「覚え早いですね、なんだか………あ」
　当たり前のように手を重ねてしまった。
（今になってなんだか恥ずかしく……）
　見ると、珪もほんの少しだけ頬を赤くしていた。今のが原因かは分からないが。
「えっと、次は玉ねぎ勝負ですね！」
　タイマーを図り、
「スタートです！」
玉ねぎのみじん切りはとにかく細かくしていくしかない。珪を見ると、先程より手付きが慣れているような。
　タイマーがなり、勝負終了。
　その瞬間に、勝負をしたくなる感覚は消えた。
（何だったんでしょうか……）
　珪が息をついた。
「いやぁ、人生で初めてかもしれないな。こんなに野菜を切ったのは」
　冗談ぽく言うが、わりと楽しんでいたのだろう。笑顔だ。
「あの、料理苦手なのに勝負なんて。すみません」
「ああ、僕もしたかったし、大丈夫だよ。それより、どうしようか、この大量のカット野菜」
　何に使うか決めないまま切ってしまったので使い道をどうするか。
「今日、家で作るはずだったチーズハンバーグを作っても良いですか？　ごちそうします」
「え、それはさすがに悪いよ」
「大丈夫です。珪さんの切ってくれた玉ねぎも使いますから」
　半ば押し切る形で、ハンバーグの素をこねて丸め、フライパンでじっくり焼いた。
　チーズを上からかけて、完成である。
「綾辻さんは本当に料理上手だね」
　とろっとしたチーズに戸惑いながらも、自分達で作った料理を楽しんだ。

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