いざ勝負！！！！｜リアクション

いざ勝負！！！！

　いつもの稽古が終わり、門下生達がぞろぞろと浴室へ向かう。汗を流してもらうのだが、それはそれとして吉住志桜里は台所に立った。
「いい？　これからよ。食事担当の戦いは」
　志桜里は吉住獅百合、琴触昴、鹿園斐美をそれぞれ見回した。台所で円陣を組んでいる時点で斐美は呟いた。
「どういうことやねん」
　志桜里は真顔で拳を握りしめた。
「２組に分かれて、クッキングレースをしましょう。ゴールは配膳できる状態になった時点、負けた方が片付け担当っ。問答の時間も惜しいわ、私とシロは揚げ焼き、昴と斐美は茹でた炊き担当。さぁ始め！」
「！？　待て、料理番と言ったって私に何が……」　　
　料理と聞いただけで昴が動揺する。
「くっ。こっち一人戦力外やん」
　斐美が苦言をもらすが、
「さぁ、すでに始まってるのよ？」
　と、志桜里。
「って、聞けや」
　しかしながら勝負は止められないようだ。
　

　斐美は用意された食材を前にゴクリと喉を鳴らした。
　今から作るのはご飯と豚汁である。
（うちのスバルんへの指示がめちゃめちゃ重要なんやない？　これ）
「ええぃ、こうなったら仕方ない。どうにかするさ。さぁ、ビビ、手分けして」
「味に関わるものは全部うち！　調味料には近寄らないこと！」
「近寄るのもNG！？」
「スバルんは味付け以外を手伝うてもらうから。ええよな？」
「いや、圧強いなそなた！？うんと言わなきゃダメなやつじゃないか」
「問答してる暇ないで。まずは炊飯釜に水を入れて計ってある米を流し込んどいてな」
「わ、分かった」
　予想以上の圧の強さに、完全に心の尻尾を巻きつつも、釜に水と米を入れる。無洗米らしいので、面倒な作業はカットだ。
「うん、ええ感じに出来たやないの。ほんなら、次は……とりあえず重そうなもの任せるわ」
「重そうって腕力ならそなたのほうが全く持って……なんでもないです」
　
昴は斐美の指示に従い、寸胴鍋をコンロへ置いた。
「出汁が必要だな？　味には関係ないし、私が」
「ダメや！　わかってへんねん。出汁は味として一番大事な部分やろ。恐ろしいわ」
　味が関係なかったら、出汁は一体なんのためにあるのかと。
「圧、強……」
　たじたじになりつつ、冷蔵庫の中から、『重い』ものを出して処理をすることにした。
　昴は豆腐のパックを開けて水を溜めたボールへ。それから、
「人参、大根、牛蒡の皮を剥いて、切る」
　慎重に作業を進める。それから、一度豆腐の水を切り、言われた通りさいのめ切りにする。
「はっ」
　昴は豆腐を宙に放った。
「何してんねん！？」
昴は包丁を振り下ろし、豆腐を真っ二つにした。その状態で、寸胴の中へ落ちる。
「よし、上手く行ったな」
「だから、何してんねん！　水を切って、キッチンペーパーで水を切らな」
「どうせ煮るんだし、いいだろう？」
「豆腐を炒めるんやから、しっかり水を切らんと！　ああ、もう、とりあえず、豆腐は崩してや」
「む。分かった」
　そこで志桜里から声をかけられた。
「かつお出汁だなんて甘いですね！　昆布との混合出汁の方が美味しいですよ」
「！？　なるほど、ビビ昆布を用意」
　斐美は昴の頬に手を当てた。
「けんちん汁はかつお出汁が一番美味しいやろ。というか、なんで対抗意識燃やした上に妨害してくんねん」
「ふふ、勝負ですからね」
　なんとも下らない状況である。
　斐美は寸胴に油を垂らした。火をつけて豆腐を炒め、人参、牛蒡、大根を炒めた後、出汁を加えた。
「これでよし」
　醤油などの調味料を入れて少しづつ煮て行く。なんとか上手く行くだろう。
　斐美はほっと胸を撫でおろした。

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