わんわん！　雪中お年玉＆お年賀争奪戦！｜リアクション

わんわん！　雪中お年玉＆お年賀争奪戦！

☆争奪戦直前

　猫鳴館住人で、いつの間にか自治会員にされてしまった月原想花は、当惑していました。
「毎年恒例のお年玉＆お年賀争奪戦……は、いいとして、こんな大雪の日に……水着──それもビキニだなんて、冗談……だよね？」
　しかし３年生の綾辻綾花は、動揺を見せることなく言うのでした。
「猫鳴館恒例の行事ですね。寒いですけどお年玉のためですから頑張ります」　
「冗談じゃなくガチ？　いや、そこまでしてお年玉ほしくないんだけど……？」
　想花の小さな声は、しかし海原茂を始めとする先輩たちの声にかき消されました。
「さあ、好きな水着を選んでくれ！　今年は犬耳と尻尾もあるから暖かいぞ」
「ええ……」
　有無を言わさず水着を押し付けられ、結局想花はいつの間にか黒いトライアングルビキニを装着して、さらに犬耳と犬尻尾まで装着することになったのでした。

「また怪我人が出そうなこと……ワットが見たらどうするだろう？」
　前日にねこったーで書き込みを見かけた稲積柚春は、考えました。
「僕の知識が球技大会に続いて応急処置に使えれば」
　以前も鷲尾礼美先生に許可を取ってアロマオイルを使った応急処置をした柚春は、今回もお手伝いをしたいと思ったのでした。
　柚春はさっそく鷲尾先生に連絡し、準備を始めました。
「雪の中水着だとしもやけ対策かな。つまり寒さによる血行障害、効果があるのは……血行をよくして身体を温めるローズマリーに、痒みや痛みを和らげるローマンカモミールかな。これを敏感な肌状態でも使えるようにスイートアーモンドのキャリアオイルでブレンドして保湿するように塗れば……」

　通りがかりに話を聞いた佐藤英二は、しばし考えました。
「真冬に水着で行動するのはかなりハードそうだけど……野々さんが気に入りそうな感じがする」
　普通で平凡を自認する英二ですが、寝子高での生活も三年。
　多少は普通のタガもはずれてくるというものでしょうか。
（高校生活が終るのが寂しそうな野々さんに満喫して欲しいな、と思う所があって。特に“高校を卒業したＯＢが企画したイベント”というのも良い要素だよね）
　ありていに言えば、興味をひかれてしまったのでした。
「毎年恒例で、保健の先生もついてるようだし野々さんを誘ってチャレンジしてみようかな？」
　そう思って連絡すると、案の定野々ののこは。
「行くー！」
　と期待にたがわぬ元気な声を上げたのでした。
　　　
　
　受験前日、椎井莉鳥は学校へやってきました。
「椎井先輩」
　振り向くと陸上部の後輩、短距離走が得意な中倉琉歌が立っていました。
「先輩も学校に用事が？」
「ちょっと忘れ物しちゃってね……」
　そんな話をしているところに、声をかけられました。
「君たち、心身を鍛えるのにぴったりのイベントに参加しないか？」
「えっ？」
　無愛想な莉鳥に、警戒されていると思ったのか青年はにこやかに言いました。
「怪しいものじゃないよ。僕たちは猫鳴館のOBさ」　
（猫鳴館……あいつが住んでいた）
　莉鳥は嫌な予感を感じたのですが、琉歌が食いついていました。
「先輩、一緒に参加しましょうよ」
　こうして二人はこの妙なイベントに参加する羽目になったのでした。

このページにイラストを設定する