【カード】ちはやぶる神の札引く大いくさ｜リアクション

【カード】ちはやぶる神の札引く大いくさ

◇花札

　寝子高OBの倉前七瀬は、カードゲーム大会と聞いて母校を訪れた。
　向かった先は百人一首の会場ではない。
（記憶力には自信があって、百人一首もほぼほぼ覚えてはいるのですが）
　問題は、七瀬が活字中毒であるということ。
（文字がそこにあるとどうも目で追ってしまって……。札を取るってことができんのですよね）

　七瀬がやってきたのは花札の会場だ。　
（これなら文字はないですし、勝てます！　……とまでは言えませんが、相手が誰でも負けない気がするとです）
　と、意気込んだ七瀬の前に現れたのは。
「やあ倉前、花札に参加するのかい？　僕もやろうかなぁ」
　内心一番会いたかった、ウォルター・B先生だった。
「相手がウォルターさんですか。ふむん、相手にとって不足なしです。いつもの僕とは違いますよー！」

　まずは裏向きの札を1枚ずつめくり、親を決める。
「僕は５月だねぇ」
「僕は７月です。ウォルターさんが親ですね」
　親のウォルターによって配られた手札を眺め、七瀬は考えた。
（ふむん、手持ちの札から最短で役を狙うなら花見で一杯でしょうか）
　場札に目当ての札を見つけ、いけると思った七瀬。
　だが、七瀬の番が来る前にウォルターが動いた。
「ってああ！！　その菊に盃、狙っとったんですが！？」
　つい声を上げてしまう七瀬。
「おや、それは知らなかったよぉ」
　しれっとウォルターは言うが、その表情が七瀬の余裕を消し飛ばす。
「ぐぬぬ、ならばこちらも反撃です」
（ウォルターさんが獲った札から推測するに、狙っとる役はきっとアレでしょうから……）
　考え、場札を眺める。
（この札を獲って役の成立を阻止します。どうでしょうか！）
　ウォルターの表情を読もうとじっと見るが。
「そんなに見つめてどうしたのかなぁ？」
　にっこりと笑顔を返されてしまった。
（ふむん、さすがに表情では読めませんね）　
　ならばそれはそれで構わない、と七瀬は札を引く。
（そろった！）
　このまま勝負に出るか。だがそれでは物足りない気もする。
（まだまだいけそうです、いきますよ）
　徹底的に勝ちを狙う、と七瀬は決めた。
「こいこい！」
「おや、攻めるねぇ」
　目を見開いて見せるウォルターの顔を眺めつつ、本心からの表情なのかはやはり読めない。
「そうこなくっちゃ」
　数分後、見事に役をそろえて上がるウォルターの姿があった。

「負けてしまったとです……」　
　肩を落とす七瀬だったが。
（まあ勝負に勝っても負けても、ウォルターさんと勝負できれば満足です）
　表情は、そんな思いを隠し切れていない。
「また花札やりましょうね。次は負けませんよ」
　声をかければウォルターは、
「それじゃ、もう一回だけだよぉ」
　とウィンクを返すのだった。

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