ただしい屋上の使い方｜リアクション

ただしい屋上の使い方

【ロマンをかき集めろ！】

『駅ビルmiao』の屋上フードコート。響タルトは飲み物を傍らに置き、晴れ渡る青空の下で次のイベントに出すための、乙女の嗜みである薄い本の構想を練っていた。
　そんな中、タルトがふと顔を上げた先。視界の隣を、大きめの瓶をぶら下げた、空と同じ水色をした風船が通り過ぎるのが飛び込んだ。

「えっ？　何かな、瓶――？　うりゃっ」
　タルトは躊躇なく、風船に手を伸ばし瓶を手にして、磨りガラス越し仕様の瓶の中身を覗いてみた。
　中には絵の描かれているような紙が入っている。それはタルトには非常に馴染み深いものに見えた――いわゆる、原稿用紙。
　僅かな嬉色と共に、タルトはさっそくコルクの蓋を開けてみる。取り出せば、それはやはり手描きの原稿用紙だった。
　早速、急ぎ目を通す。背景とキャラがシーンによってしっかりとメリハリのなされた描き込み。瓶に入っていたものは、とある場面の二ページでしかないが、それでも絶対に面白いと思わせるコマ割りとストーリー性――

「続き――っ！　続きと前後が読みたいー！！」
　タルトは、情熱を伴い声を上げつつ。同時に最初の瓶を手にした瞬間、大体の仕組みを把握した。
　だとすれば『風船の瓶を手にすれば、恐らく求めていたものが読める』はず――しかし、次！　と、他の風船の瓶に触れたタルトは、その中身が形になりかけた所で、瓶が地面に触れた瞬間に全部が消えるのを目の当たりにした。
「これ、もしかして地面につくと中身が消えちゃうっ？
　――集めなきゃ！」
　カッ、とタルトの目が見開かれた。
　あんな神がかった作品が消えるなんて勿体なさすぎる！　あの話は読破されるべきだ、これは創作畑の人間としての使命である――！
　傍目にはそのくらいの熱量を伴って、タルトはダッシュでテーブルに戻ると、バッグから大きめの水筒に入っている冷たくない程度に温められてた、ろっこん用のぬるま湯を頭から勢いよくバッシャン！　と被ってみせた。
「――うんっ」
　発動したろっこんにより、可愛らしい猫耳猫しっぽがタルトに生える。とんっとその場でジャンプすれば軽く身長の倍程度に軽やかに体が跳ねた。
　一般の人がいない訳では無いが、皆遠く風上から飛んでくる風船と瓶に釘付けになっており、風下のこちらにはほとんど目が向けられる事はない。

「よーし、レッツゴー！」
　ろっこんによって強化された敏捷能力で、まずはダッシュ。軽く助走をつけてジャンプしただけで中空にまで飛んだタルトは、素早く手を伸ばすと目にも止まらぬ動きで、次々と人が取れなかった風船の紐をキャッチして瓶を集めていった。
「これだけ集めれば十分かな？」
　ストンと降りればテーブルがもうひとつ必要なくらいの瓶の山。中身はもちろん原稿用紙だ。
「わぁっ、楽しみ～☆」
　さっそく、タルトがウキウキしながら瓶の蓋を開けて、全部を熟読するまでし終えるまで数十分――
　途中、感動した。笑いもした。泣きもした。
　そうして極めて充実した時間を過ごし、タルトは読み終えた原稿用紙をまとめ、笑顔で心からの満足を示した。

　しかし、
「これ、消えちゃうの？　もったいない……」
　瓶の蓋を開けた時から、薄々気づいていはいた。だが、読んでしまった今やっぱり消えてしまうのは物凄く惜しい。スマホでの写真にもチャレンジするが……
「あーんっ、やっぱり何も写ってないー！　勿体なーいっ！
　……そういえば、この瓶どうしよ……消える気配ないんだよね」
　原稿用紙は今にも消えそうだが、目の前にある瓶だけは存在感にあふれて消えそうにない。しかも山積み。
　途方に暮れた矢先、その瓶の向こうに、見覚えのある金の髪の青年が――

「あ、ラッセルくーん！」

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